水滴(目取真 俊著)


水滴

『水 滴』

文芸春秋発行

1,050円

文庫は460円

沖縄を舞台にした小説をご紹介する。タイトルは「水滴」。目取真 俊(めどるま しゅん)著(文芸春秋)、平成9年の発刊。文春文庫にもなっている。この作品は、平成9年の芥川賞を受賞した。作者は昭和35年生まれ、今帰仁村出身。

あらすじは、沖縄で暮らす徳正(とくしょう)が昼寝から目覚めると、右膝から下が大きく膨れ上がっていた。しかも、親指の先から水が絶え間なく滴り落ちる。口もきけず、体も動かせないが、意識ははっきりしていた徳正が見たものは、夜な夜な自分の足から出るその水を飲みに来る、旧日本兵の亡霊たちだった。その中には、昔、自分が見捨てた親友の姿があった。

沖縄戦が始まった頃、鉄血勤皇隊員だった徳正は、戦後、過去を捨てよう、忘れようとして、人生をごまかしながら暮らしてきた。親友を置き去りにして自分が生き残った後ろめたさを踏み越えてゆけなかったが故に、突然、膝が膨れ上がったのだった。そして、戦時下の沖縄と現在が交錯して物語が展開してゆく。しかし、こういう重厚なテーマが、従兄弟の清裕(せいゆう)がコミカルに登場することによって、ストーリーの腰を折ってしまった。芥川賞作家に、こんなことを申し上げるは大変失礼だが、テーマとは全くクロスしない従兄弟を、わざわざ登場させる必然性があったのだろうか?。

表題の「水滴」のほか、「風音」、「オキナワン・ブック・レヴュー」の計3編が収められている。

《追記》目取真俊氏は、平成28年4月1日、辺野古基地の予定地周辺で在日アメリカ軍の警備員に身柄を拘束された。集団でカヌーに乗って基地建設への抗議活動をしていたとき、フロート内のアメリカ軍提供水域の中に入った刑事特別法違反の疑いとみられる。沖縄タイムスによると、辺野古基地に反対するカヌー隊が、アメリカ軍側に身柄拘束されるのは初めてのこと。米軍に拘束された後、身柄の引き渡しを受けた中城海上保安部が、日米地位協定に伴う刑事特別法違反容疑で逮捕、送検したが、処分保留で釈放された。目取真氏は「いつも抗議活動をしている場所で突然、アメリカ軍の警備員に捕らわれ、8時間拘束された」として、不当な逮捕だと訴えている。



◎沖縄を題材にした著作で、このサイトでご紹介しているのは、(出版順ではなく、私が読んだ順)
  ・「風景を見る犬(樋口有介著)」⇒こちらから
  ・「Juliet(ジュリエット/伊島りすと著)」⇒こちらから
  ・「水滴(目取真 俊著)」⇒こちらから
  ・「太陽の棘(原田マハ著)」⇒こちらから
  ・「スリーパー(楡周平著)」⇒こちらから
  ・「鬼忘(きぼう)島(江上 剛著)」⇒こちらから
  ・「あたしのマブイ見ませんでしたか(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「テンペスト(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「黙示録(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ほんとうの琉球の歴史(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「本屋になりたい」(宇田智子著)」⇒こちらから
  ・「ニライカナイの風」(上間司著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「豚の報い(又吉栄喜著)」⇒こちらから
  ・「祭祀のウソ。ホント(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)」⇒コチラから
  ・「辻の華(上原栄子著)」⇒こちらから
  ・「宇喜也嘉の謎(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「ヒストリア」(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ウィルソン沖縄の旅 1917(古居智子著)」⇒こちらから
  ・「武士マチムラ(今野 敏著)」⇒こちらから
  ・「本日の栄町市場と、旅する小書店(宮里綾羽著)」⇒こちらから
  ・「秘祭(石原慎太郎著著)」⇒こちらから
  ・「ユタが愛した探偵(内田康夫著)」⇒こちらから
  ・「崩れる脳を抱きしめて(知念実季人著)」⇒こちらから
  ・「沖縄『骨』語り(土肥直美著)」⇒ コチラから
  ・「天地に燦たり(川越宗一著)」⇒ コチラから
  ・「波の上のキネマ」(増山実著)」⇒ コチラから
  ・「神に守られた島(中脇初枝著)」⇒ コチラから
  ・「宝島(真藤順丈著)」⇒ コチラから
  ・「あなた(大城立裕著)」⇒ コチラから
  ・「入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)」⇒ コチラから
  ・「ジョージが殺した猪(又吉栄喜著)」⇒ コチラから
  ・「桃源(黒川博行著)」⇒ コチラから
  ・「翡翠色の海へうたう(深沢 潮著)」⇒ コチラから

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