沖 縄 移 住 生 活 始 め ま し た
『崩れる脳を抱きしめて』 1,200円+税 実業之日本社 |
この作品は沖縄を舞台にしたものではない。作者が沖縄県出身で、この著作が2018年の本屋大賞にノミネートされ、沖縄県書店大賞を受賞したというだけなので、このサイトで取り上げるかどうか迷ったが、医師という経歴と沖縄出身の新進作家だったので、ご紹介することにした。このコーナーでは、今まで沖縄を題材とした著作しかご紹介してこなかったので、あらかじめ、もう一度だけ申し上げるが、作品には沖縄はどこにも登場しない。 |
本の装丁を見るとライトノベル系統のラブストーリーかと思ったが、内容はミステリー。不治の病に冒されたヒロイン、新米医師と若い女性の患者、終末期医療とお膳立てがそろえばハッピーエンドの黄昏シネマという結末は想定内。これ以上はネタバレになるので控えるが、ちゃちなご都合主義の辻褄合わせも気にならないほど、スピーディにストーリーが展開して行く。あっという間に読み終えた。まぁ、やたら難しい医学用語の解説をされるよりも、素人でも分かる内容は大歓迎なのだが、タイトルの「崩れる脳…」 は、いかにも仰々しい。また、帯の「圧巻のラスト20ページ!驚愕し感動する!!愛した彼女は幻なのか」は、完全に内容をバラしている。
それ以上のネタバレにならない程度にあらすじをご紹介すると、主人公は、脳外科医を目指す26歳の研修医・碓氷蒼馬だ。普段は実家のある広島の大病院に勤務しているが、地域医療の実習として、神奈川県葉山町にある高級療養型病院へと赴任する。そこで出会ったのが、最悪の脳腫瘍とされる「グリオブラストーマ(膠芽腫:こうがしゅ)」を患う28歳のユカリ──弓狩環だった。二人は、ユカリが不治の病であることを承知しながら惹かれ合う。しかし実習が終わり、蒼馬は広島へと戻らざるを得なくなる。再び病院を訪れた時、医師や患者たちは「ユカリは死んだ。そもそも、あなたは彼女を診察したことなどなかったはずだ」と証言する…(小説丸より抜粋)。
知念氏は医師だから「死」は身近なところにあるだろうが、この著作を書くにあたっては、人の死に対する主人公の考えを語る部分は、自分の考えを読者に押し付けるのではなく、読者が読んで何か気づきの感じがあるくらいがいいと読者本位の考えを堅持している。琉球新報が著者にインタビューをしたとき、沖縄を舞台にしたミステリーの可能性について質問したところ、「ぜひ書きたい。少し取材もして時間をかけて考えたい」と話した。発表されたらこのサイトでご紹介したい。
◎沖縄を題材にした著作で、このサイトでご紹介しているのは、(出版順ではなく、私が読んだ順)
・「風景を見る犬(樋口有介著)」⇒こちらから
・「Juliet(ジュリエット/伊島りすと著)」⇒こちらから
・「水滴(目取真 俊著)」⇒こちらから
・「太陽の棘(原田マハ著)」⇒こちらから
・「スリーパー(楡周平著)」⇒こちらから
・「鬼忘(きぼう)島(江上 剛著)」⇒こちらから
・「あたしのマブイ見ませんでしたか(池上永一著)」⇒こちらから
・「テンペスト(池上永一著)」⇒こちらから
・「黙示録(池上永一著)」⇒こちらから
・「トロイメライ(池上永一著)」⇒こちらから
・「ほんとうの琉球の歴史(渡久地十美子著)」⇒こちらから
・「本屋になりたい」(宇田智子著)」⇒こちらから
・「ニライカナイの風」(上間司著)」⇒こちらから
・「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ(池上永一著)」⇒こちらから
・「豚の報い(又吉栄喜著)」⇒こちらから
・「祭祀のウソ・ホント(渡久地十美子著)」⇒こちらから
・「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)」⇒コチラから
・「辻の華(上原栄子著)」⇒こちらから
・「宇喜也嘉の謎(渡久地十美子著)」⇒こちらから
・「ヒストリア(池上永一著)」⇒こちらから
・「ウィルソン沖縄の旅 1917(古居智子著)」⇒こちらから
・「武士マチムラ(今野 敏著)」⇒こちらから
・「本日の栄町市場と、旅する小書店(宮里綾羽著)」⇒こちらから
・「秘祭(石原慎太郎著著)」⇒こちらから
・「ユタが愛した探偵(内田康夫著)」⇒こちらから
・「崩れる脳を抱きしめて(知念実季人著)」⇒こちらから
・「沖縄『骨』語り(土肥直美著)」⇒ コチラから
・「天地に燦たり(川越宗一著)」⇒ コチラから
・「波の上のキネマ」(増山実著)」⇒ コチラから
・「神に守られた島(中脇初枝著)」⇒ コチラから
・「宝島(真藤順丈著)」⇒ コチラから
・「あなた(大城立裕著)」⇒ コチラから
・「入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)」⇒ コチラから
・「ジョージが殺した猪(又吉栄喜著)」⇒ コチラから
・「桃源(黒川博行著)」⇒ コチラから
・「翡翠色の海へうたう(深沢 潮著)」⇒ コチラから
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背景の「読谷山花織」は、「ゆたんざはなうぃ」または、「よみたんざんはなおり」と読みます。琉球王朝のための御用布として織られていました。絶滅寸前だったものを、昭和39年に読谷村で「幻の花織」として復活しました。