桃源(黒川博行著)


桃源

『桃 源』

2,200円+税 集英社

黒川博行氏は、1949年愛媛県今治市生まれ。 1986年『キャッツアイころがった』で第4回サントリーミステリー大賞、1996年「カウント・プラン」で第49回日本推理作家協会賞、 2014年『破門』で第151回直木賞を受賞している。

内容紹介には、「沖縄の互助組織、模合。 グループで毎月集まって金を出し合い、欲しい人間から順に落札するこの制度で集めた、仲間の金600万円を持ち逃げした比嘉の行方を追うこととなった大阪府警泉尾署の刑事、新垣と上坂。
どうやら比嘉は沖縄に向かったらしいという情報をつかんだ二人が辿り着いたのは、沖縄近海に沈む中国船から美術品を引き上げるという大掛かりなトレジャーハントへの出資詐欺だった――。
遺骨収集、景徳鎮、クルーザーチャーター。様々な情報と思惑が錯綜するなか、真実はどこに向かうのか。著者過去作の『落英』に登場した上坂が新たに組んだ相方は沖縄出身の色男・新垣。新結成の警察コンビが事件の謎に迫る!
「黒豆コンビ」、「ブンと総長」など初期警察小説から30余年、黒川博行の新たな正統警察捜査小説シリーズ、ここに誕生。刑事・新垣遼太郎×上坂勤が南西諸島を舞台とするトレジャーハント事件に挑む」とある。



黒川博行氏といえば、数多くの著作を残しているベテラン作家で、ハードボイルド系や警察小説の作品は、テレビ「 水曜ミステリー」や「土曜ワイド劇場」の原作となったり、船越英一郎主演で連続ドラマ化した作品もあるほど人気を博している作家である。

さて、今回の作品は、書店で平積みにしてあったので、表紙を見ただけで、すぐ手に取った。なぜなら、女性は琉装で髪型は「うなじーからじ」という独特のスタイルなので、舞台は沖縄と知れたからである。

模合とは、沖縄出身者ならだれでも知っている本土でいう頼母子講(たのもしこう)のことで、「もあい」と読む。上記の本の内容を読めば、あらすじのほとんどが分かってしまう。正統警察捜査小説シリーズとあるが、読み終えた感想は、ズッコケ・ユーモア小説といったところ。都筑道夫氏は「ミステリーは、トリックよりもロジック」と言ったが 500ページを超す長編というだけでストーリーが冗長で、二人の刑事の会話のテンポはいいが、読者に一気に読ませるほどの内容には乏しく、物語の展開性にも欠けており、ミステリーとしてのトリック性も希薄である。また、沈没船詐欺というテーマには、目新しさも奇抜なところも見受けられないのが残念であった。

また、容疑者たちが偽名を使って島を転々とするのだが、どこに行ったのかすぐにバレてしまうのは勝手がよすぎる。そんなに簡単に足取りが分かるなんてことは、普通はあり得ない。追いかける刑事が航空カウンターで顔写真を見せると、「ああ、この人たちなら〇日前に××、△△という名前で☆島に行きました」なんてことが度々続くなんて、いくらフィクションでもご都合主義すぎる。

さらに、古い映画のタイトルが頻繁に出てくるが、ストーリーとは何の関連もないので、映画好きという著者のウンチクを披露しているだけのように思える。沖縄の島々の名前や島のグルメがどんどん出てくるので、沖縄に住む者には、勝手知ったるわが庭を舞台にしたトラベルミステリーだと思えば、それはそれで許されるかもしれないなぁ。黒川氏の作品だったので、期待するところも大きかったのだが…。なお、南西諸島の島の配置が頭に入っていないと物語のスジを追いにくいので、地図が必要になるかも。沖縄諸島の地理について、詳しくは ⇒ コチラから

辛口の批評をしたが、著者の作品は何冊も読んでおり、ハードボイルド系の作品には面白いものも多々あった。直木賞は18年間に5回も候補になった後に受賞した。受賞作「破門」は、彼の最高傑作のひとつだったと思う。

なお、余談だが、私たちの世代には、黒川氏と言えば、週刊誌で「グリコ森永事件」の真犯人という濡れ衣を着せられ、その記事を書いた作家と出版社を、名誉毀損とプライバシー侵害で訴えたという騒動を思い出す。黒川氏の著作に、犯行手口の一部と酷似した描写があったというものだったが、裁判は最高裁で黒川氏の勝訴が確定した。「グリコ森永事件」とは、1984年〜に、関西地区を舞台に食品会社を標的とした一連の企業脅迫事件で、事件は未解決のまま時効を迎えた。



◎沖縄を題材にした著作で、このサイトでご紹介しているのは、(出版順ではなく、私が読んだ順)
  ・「風景を見る犬(樋口有介著)」⇒こちらから
  ・「Juliet(ジュリエット/伊島りすと著)」⇒こちらから
  ・「水滴(目取真 俊著)」⇒こちらから
  ・「太陽の棘(原田マハ著)」⇒こちらから
  ・「スリーパー(楡周平著)」⇒こちらから
  ・「鬼忘(きぼう)島(江上 剛著)」⇒こちらから
  ・「あたしのマブイ見ませんでしたか(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「テンペスト(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「黙示録(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ほんとうの琉球の歴史(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「本屋になりたい」(宇田智子著)」⇒こちらから
  ・「ニライカナイの風」(上間司著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「豚の報い(又吉栄喜著)」⇒こちらから
  ・「祭祀のウソ・ホント(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)」⇒コチラから
  ・「辻の華(上原栄子著)」⇒こちらから
  ・「宇喜也嘉の謎(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「ヒストリア(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ウィルソン沖縄の旅 1917(古居智子著)」⇒こちらから
  ・「武士マチムラ(今野 敏著)」⇒こちらから
  ・「本日の栄町市場と、旅する小書店(宮里綾羽著)」⇒こちらから
  ・「秘祭(石原慎太郎著著)」⇒こちらから
  ・「ユタが愛した探偵(内田康夫著)」⇒こちらから
  ・「崩れる脳を抱きしめて(知念実季人著)」⇒こちらから
  ・「沖縄『骨』語り(土肥直美著)」⇒ コチラから
  ・「天地に燦たり(川越宗一著)」⇒ コチラから
  ・「波の上のキネマ(増山実著)」⇒ コチラから
  ・「神に守られた島(中脇初枝著)」⇒ コチラから
  ・「宝島(真藤順丈著)」⇒ コチラから
  ・「あなた(大城立裕著)」⇒ コチラから
  ・「入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)」⇒ コチラから
  ・「ジョージが射殺した猪 (又吉栄喜著)」⇒ コチラから


ナビゲーションはトップページにあります。⇒ TOPページへ

背景の「首里織」は、首里王府の城下町として栄えた首里において王府の貴族、士族用に作られていたもので、悠々として麗美な織物が織り継がれ、現在に至っています。この作品は、米須幸代さんの「グーシー花織」です。