沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)


沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか

「沖縄の新聞は本当に
『偏向』しているのか」
1,512円 朝日新聞出版

沖縄の新聞は偏向していると耳にすることがある。前のNHK経営委員の一人であった百田尚樹氏は、昨年(平成27年)6月の自民党国会議員の勉強会で「沖縄のあの二つの新聞社は、つぶさなあかん」と発言し、続いて「沖縄のどっかの島でも中国にとられてしまえば沖縄県人は目を覚ますはず」などと発言した。これらが暴論なのは言うまでもなく、こういう短絡的な発想は極めて危険なのだが、同調する人も少なからず存在する。この本の著者、安田氏は、百田氏の発言を擁護するするネット発信量の多さに抗いたいという思いで沖縄に飛んだという。

ネット言説でも「沖縄紙が沖縄県民を洗脳している」とか「沖縄紙によって県民世論がコントロールされている」と沖縄紙を批判している。そういう意見が主流ではないのだが、百田氏のように知名度が高い人物が そういう論調を肯定すれば、影響される人は少なくない。同氏の発言後、ちょうちん持ちみたいな自称知識人たちが、次々に「発言のどこが悪い。発言は正しい」と吹聴する動きもあった。そもそも沖縄紙が沖縄県民を洗脳するとか、世論を扇動しているという発想自体が、沖縄県民を差別的に見ている証拠である。

この本の出版に至った経緯について著者は「沖縄2紙は偏向しているという主張は、思い込みによる差別で、それを許す日本社会が一部にある。それが許せなかった」と言う。沖縄の2紙

は、日米安保条約、在日米軍、新基地建設、憲法改正、安保法制、自衛隊の軍備増強などには、はっきりと否定的な報道をしているのだが、新聞社が自社の考えを主張してはいけないのだろうか。全国紙でも決して公正中立ではない。朝日新聞や毎日新聞はアベノミクスや集団的自衛権、原発には否定的な見解を示しており、読売・産経新聞は肯定的である。沖縄2紙は新基地反対を主張している。その主張は、新聞社の独断でも偏見でもない。先般の県知事・参院の選挙結果などからも分かるように、それが沖縄の民意なのだ。それが偏向だと言うなら、時の政権を批判する記事を書く新聞社は、すべて偏向新聞ということになる。

米大統領選挙はトランプ氏が勝利したが、米有力紙ニューヨーク・タイムズは、投票日前の9月24日付の社説で民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官を支持すると表明した。ヒラリー氏の「知性や経験」に基づくとしており、一方の共和党候補のドナルド・トランプ氏については、「現代米国史において主要政党に推薦された最悪の候補」と表現した(Jcast news)。酷評を受けたトランプ氏がニューヨーク・タイムス紙を偏向新聞と言っただろうか。

《ひとり言》少々、引っかかるのは、全国紙は このところ、その批判の矛先が鈍っているような気が……。ジャーナリズムの存在意義は権力の監視であり、時の政権の権力の乱用を追及するのが その役割である。沖縄の2紙は、十分に その役割を果たしている。ただし「ジャーナリズムは反権力でなければならない」と言っているのでないので誤解のないように。そして、もう一言、付け加えたいのだが、沖縄の新聞は基地のことばかり書いているという批判がある。基地に何も問題がなければ記事にはならない。基地には、記事にしなければならない問題が次々に発生する。だから基地のことを書かざるを得なくなるのである。それを偏向報道とは決して言わない。

沖縄県で発行される2紙の県内シェアは約97%と、圧倒的に高い数字を保っている。地元紙といえども商業紙である以上、読者の支持を失えば購読してもらえないことは明白だ。昭和40年代に、2紙の革新的論調を嫌って「沖縄時報」その後、「沖縄経済新聞」が発行されたが、いずれも県民の支持を得ることができず長続きはしなかった(HP「タグマ」)。今、沖縄2紙は購読したくないというなら、全国紙の中の保守系紙を購読するという選択肢もある。ただし、空輸なので朝刊は午後に配達される。また、県内版はない…。

安田浩一氏の近著「沖縄の新聞は…」は、この問題を正面から論じた。安田氏は昭和39年、静岡県の生まれ。慶応大卒。日経新聞、週刊宝石、サンデー毎日の記者を経て、現在はフリーのジャーナリスト。「ネットと愛国、在特会の『闇』を追いかけて」で日本ジャーナリスト会議賞及び講談社ノンフィクション賞、『ルポ 外国人『隷属』労働者』で第46回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。

このページで書いたことを1,000字以内に要約して、地元紙に投稿したら「論壇」に掲載された。 ⇒ コチラから
なお、顔写真はボカシ処理をした。



◎沖縄を題材にした著作で、このサイトでご紹介しているのは、(出版順ではなく、私が読んだ順)
  ・「風景を見る犬(樋口有介著)」⇒こちらから
  ・「Juliet(ジュリエット/伊島りすと著)」⇒こちらから
  ・「水滴(目取真 俊著)」⇒こちらから
  ・「太陽の棘(原田マハ著)」⇒こちらから
  ・「スリーパー(楡周平著)」⇒こちらから
  ・「鬼忘(きぼう)島(江上 剛著)」⇒こちらから
  ・「あたしのマブイ見ませんでしたか(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「テンペスト(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「黙示録(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ほんとうの琉球の歴史(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「本屋になりたい」(宇田智子著)」⇒こちらから
  ・「ニライカナイの風」(上間司著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「豚の報い(又吉栄喜著)」⇒こちらから
  ・「祭祀のウソ。ホント(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)」⇒コチラから
  ・「辻の華(上原栄子著)」⇒こちらから
  ・「宇喜也嘉の謎(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「ヒストリア」(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ウィルソン沖縄の旅 1917(古居智子著)」⇒こちらから
  ・「武士マチムラ(今野 敏著)」⇒こちらから
  ・「本日の栄町市場と、旅する小書店(宮里綾羽著)」⇒こちらから
  ・「秘祭(石原慎太郎著著)」⇒こちらから
  ・「ユタが愛した探偵(内田康夫著)」⇒こちらから
  ・「崩れる脳を抱きしめて(知念実季人著)」⇒こちらから
  ・「沖縄『骨』語り(土肥直美著)」⇒ コチラから
  ・「天地に燦たり(川越宗一著)」⇒ コチラから
  ・「波の上のキネマ」(増山実著)」⇒ コチラから
  ・「神に守られた島(中脇初枝著)」⇒ コチラから
  ・「宝島(真藤順丈著)」⇒ コチラから
  ・「あなた(大城立裕著)」⇒ コチラから
  ・「入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)」⇒ コチラから
  ・「ジョージが殺した猪(又吉栄喜著)」⇒ コチラから
  ・「桃源(黒川博行著)」⇒ コチラから
  ・「翡翠色の海へうたう(深沢 潮著)」⇒ コチラから

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