沖 縄 移 住 生 活 始 め ま し た
『入れ子の水は月に轢かれ』 1,944円 早川書房 |
まず、著者の紹介をすると、平成4(1992)年生まれ、沖縄県浦添市出身。京都大学法学部休学中。本名:上里叶子(うえざと きょうこ)。ペンネームからでは男女が分からなかったが、那覇市のジュンク堂でトークショー行われ、そのとき、新聞に掲載された写真では、女性の服装をしておられた。平成30(2018)年出版の本作がデビュー作。 |
本作がどの意味に該当するかは、読み終えてからご判断を。第5章が「入れ子の水」となっている。裏表紙の内容紹介には、次のとおり記されている。
那覇・水上店舗通り―繁華な国際通りから一本入ったその場所は、猥雑なバックストリートだ。かつては湿地帯だったガーブ川を、戦後に不法占拠して生まれたワンダーゾーン。…いわば、風来坊たちの隠れ家である。障害のあった双子の兄は水害で死んだが、その身代わりとして、偽りの人生を生きてきた孤独な青年・岡本駿。母を振り切って実家を飛び出した彼は放浪の果て、水上店舗通りに辿り着いた。高齢フリーターの川平健、そして老女傑の鶴子オバアと出会い、居場所を見つけた駿はやがて、オバアの店を譲り受け『水上ラーメン』をオープンする。しかし開店当日、最初の客が謎多き水死体として発見される。不審死を追う駿と健は、在日米軍、CIA、琉球王など、沖縄に滲む黒闇を目の当たりにする。第8回アガサ・クリスティー賞受賞作品。
那覇の暗渠を流れるガーブ川がある。その上に立つ商店は水上店舗といわれている。本作の目次の後に鳥観図のような地図がついている。水上店舗は、沖縄に住んでいる人は分かるだろうが、地形を知らない人には情景が想像できないかもしれない。簡単に言うと川(行政上は公共下水道雨水施設という排水路)の上に蓋(大半が暗渠)をして、その上にビルや商店などが建っている。平成21(2009)年8月19日には、橋の耐震調査をしていた作業員が鉄砲水に流され、4人が死亡した事故が起きている。 主人公の青年、駿は、過去のゲリラ豪雨の後遺症から「マンホール恐怖症」になってしまっている。その青年が水上店舗に住み着き、素人探偵を演じるというミステリードラマというか、冒険小説というか。背景は、戦後の沖縄とベトナム戦争が主な舞台。
なお、後日の琉球新報の「沖縄ひと物語」によれば、著者の兄には知的障害があり、著者が10歳のとき、障害の発作が原因で亡くなった。小説の主人公は、この実兄がモデルになっているという。本人の談には「あとで自覚したのですが、自分の中に溜まっていたものが自然に出て、作品とシンクロしていると思った。沖縄を舞台にしたかったし、兄ちゃんをモデルにしたキャラクターの設定も、自分のなかの引き出しを全部開けてみた感じです」とある。
選考委員の 北上次郎は言う。「まだ決して完成形ではないが、この作家はもっともっと大きくなる。そういう予感を抱かせてくれる作家と出会えたことを喜びたい」
私の学生時代には、大学には8回生までしか在籍できなかった。オーガニックゆうきさんは休学中ということなので、休学は在籍期間に含まれないので8年以上在籍はできる。「他人のことはほっといて」と言われそうだが、今年で27才になられるようなので、老婆心ながら早く卒業されることを願っております。
◎沖縄を題材にした著作で、このサイトでご紹介しているのは、(出版順ではなく、私が読んだ順)
・「風景を見る犬(樋口有介著)」⇒こちらから
・「Juliet(ジュリエット/伊島りすと著)」⇒こちらから
・「水滴(目取真 俊著)」⇒こちらから
・「太陽の棘(原田マハ著)」⇒こちらから
・「スリーパー(楡周平著)」⇒こちらから
・「鬼忘(きぼう)島(江上 剛著)」⇒こちらから
・「あたしのマブイ見ませんでしたか(池上永一著)」⇒こちらから
・「テンペスト(池上永一著)」⇒こちらから
・「黙示録(池上永一著)」⇒こちらから
・「トロイメライ(池上永一著)」⇒こちらから
・「ほんとうの琉球の歴史(渡久地十美子著)」⇒こちらから
・「本屋になりたい」(宇田智子著)」⇒こちらから
・「ニライカナイの風」(上間司著)」⇒こちらから
・「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ(池上永一著)」⇒こちらから
・「豚の報い(又吉栄喜著)」⇒こちらから
・「祭祀のウソ・ホント(渡久地十美子著)」⇒こちらから
・「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)」⇒コチラから
・「辻の華(上原栄子著)」⇒こちらから
・「宇喜也嘉の謎(渡久地十美子著)」⇒こちらから
・「ヒストリア(池上永一著)」⇒こちらから
・「ウィルソン沖縄の旅 1917(古居智子著)」⇒こちらから
・「武士マチムラ(今野 敏著)」⇒こちらから
・「本日の栄町市場と、旅する小書店(宮里綾羽著)」⇒こちらから
・「秘祭(石原慎太郎著著)」⇒こちらから
・「ユタが愛した探偵(内田康夫著)」⇒こちらから
・「崩れる脳を抱きしめて(知念実季人著)」⇒こちらから
・「沖縄『骨』語り(土肥直美著)」⇒ コチラから
・「天地に燦たり(川越宗一著)」⇒ コチラから
・「波の上のキネマ(増山実著)」⇒ コチラから
・「神に守られた島(中脇初枝著)」⇒ コチラから
・「宝島(真藤順丈著)」⇒ コチラから
・「あなた(大城立裕著)」⇒ コチラから
・「入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)」⇒ コチラから
・「ジョージが殺した猪(又吉栄喜著)」⇒ コチラから
・「桃源(黒川博行著)」⇒ コチラから
・「翡翠色の海へうたう(深沢 潮著)」⇒ コチラから
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背景の「首里織」は、首里王府の城下町として栄えた首里において王府の貴族、士族用に作られていたもので、悠々として麗美な織物が織り継がれ、現在に至っています。この作品は、米須幸代さんの「グーシー花織」です。