入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)


入れ子の水は月に轢かれて

『入れ子の水は月に轢かれ』

1,944円 早川書房

まず、著者の紹介をすると、平成4(1992)年生まれ、沖縄県浦添市出身。京都大学法学部休学中。本名:上里叶子(うえざと きょうこ)。ペンネームからでは男女が分からなかったが、那覇市のジュンク堂で行われたトークショーの記事が新聞に掲載され、そのとき、新聞に写真入りで掲載されたので女性と判明。平成30(2018)年出版の本作がデビュー作。

風変わりなタイトルだ。「入れ子」って何だっけ?と、意味を検索してみた。次のように書かれていた(Wikipediaより)。
入れ子(いれこ)とは、
1. 同様の形状の大きさの異なる容器などを順に中に入れたもの。重箱や杯などの入れ子細工。よく知られたものとして箱根細工の入れ子人形(こけし・だるま・七福神)、ロシアのマトリョーシカ人形がある。
2. プログラミングにおけるネスティング(入れ子構造)のこと。
3. 劇中劇などのように、物語の中で別の物語が展開する構造のこと。 ⇒ 枠物語
4. 額縁の部品の一つ。油彩額などに使われる、絵とガラスとを密着させないための枠。
5. 死亡した実子に代りに養子を迎えること、またはその養子のこと。
6. 手こぎの船で櫓杭(ろぐい)を差し込むために櫓にあけた穴。

本作がどの意味に該当するかは、読み終えてからご判断を。第5章が「入れ子の水」となっている。裏表紙の内容紹介には、次のとおり記されている。
那覇・水上店舗通り―繁華な国際通りから一本入ったその場所は、猥雑なバックストリートだ。かつては湿地帯だったガーブ川を、戦後に不法占拠して生まれたワンダーゾーン。…いわば、風来坊たちの隠れ家である。障害のあった双子の兄は水害で死んだが、その身代わりとして、偽りの人生を生きてきた孤独な青年・岡本駿。母を振り切って実家を飛び出した彼は放浪の果て、水上店舗通りに辿り着いた。高齢フリーターの川平健、そして老女傑の鶴子オバアと出会い、居場所を見つけた駿はやがて、オバアの店を譲り受け『水上ラーメン』をオープンする。しかし開店当日、最初の客が謎多き水死体として発見される。不審死を追う駿と健は、在日米軍、CIA、琉球王など、沖縄に滲む黒闇を目の当たりにする。第8回アガサ・クリスティー賞受賞作品。

那覇の暗渠を流れるガーブ川がある。その上に立つ商店は水上店舗といわれている。本作の目次の後に鳥観図のような地図がついている。水上店舗は、沖縄に住んでいる人は分かるだろうが、地形を知らない人には情景が想像できないかもしれない。簡単に言うと川(行政上は公共下水道雨水施設という排水路)の上に蓋(大半が暗渠)をして、その上にビルや商店などが建っている。平成21(2009)年8月19日には、橋の耐震調査をしていた作業員が鉄砲水に流され、4人が死亡した事故が起きている。 主人公の青年、駿は、過去のゲリラ豪雨の後遺症から「マンホール恐怖症」になってしまっている。その青年が水上店舗に住み着き、素人探偵を演じるというミステリードラマというか、冒険小説というか。背景は、戦後の沖縄とベトナム戦争が主な舞台。

なお、後日の琉球新報の「沖縄ひと物語」によれば、著者の兄には知的障害があり、著者が10歳のとき、障害の発作が原因で亡くなった。小説の主人公は、この実兄がモデルになっているという。本人の談には「あとで自覚したのですが、自分の中に溜まっていたものが自然に出て、作品とシンクロしていると思った。沖縄を舞台にしたかったし、兄ちゃんをモデルにしたキャラクターの設定も、自分のなかの引き出しを全部開けてみた感じです」とある。

選考委員の 北上次郎は言う。「まだ決して完成形ではないが、この作家はもっともっと大きくなる。そういう予感を抱かせてくれる作家と出会えたことを喜びたい」

私の学生時代には、大学には8回生までしか在籍できなかった。オーガニックゆうきさんは休学中ということなので、休学は在籍期間に含まれないので8年以上在籍はできる。「他人のことはほっといて」と言われそうだが、今年で27才になられるようなので、老婆心ながら早く卒業されることを…。


◎沖縄を題材にした著作で、このサイトでご紹介しているのは、(出版順ではなく、私が読んだ順)
  ・「風景を見る犬(樋口有介著)」⇒こちらから
  ・「Juliet(ジュリエット/伊島りすと著)」⇒こちらから
  ・「水滴(目取真 俊著)」⇒こちらから
  ・「太陽の棘(原田マハ著)」⇒こちらから
  ・「スリーパー(楡周平著)」⇒こちらから
  ・「鬼忘(きぼう)島(江上 剛著)」⇒こちらから
  ・「あたしのマブイ見ませんでしたか(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「テンペスト(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「黙示録(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ほんとうの琉球の歴史(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「本屋になりたい」(宇田智子著)」⇒こちらから
  ・「ニライカナイの風」(上間司著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「豚の報い(又吉栄喜著)」⇒こちらから
  ・「祭祀のウソ・ホント(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)」⇒コチラから
  ・「辻の華(上原栄子著)」⇒こちらから
  ・「宇喜也嘉の謎(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「ヒストリア(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ウィルソン沖縄の旅 1917(古居智子著)」⇒こちらから
  ・「武士マチムラ(今野 敏著)」⇒こちらから
  ・「本日の栄町市場と、旅する小書店(宮里綾羽著)」⇒こちらから
  ・「秘祭(石原慎太郎著著)」⇒こちらから
  ・「ユタが愛した探偵(内田康夫著)」⇒こちらから
  ・「崩れる脳を抱きしめて(知念実季人著)」⇒こちらから
  ・「沖縄『骨』語り(土肥直美著)」⇒ コチラから
  ・「天地に燦たり(川越宗一著)」⇒ コチラから
  ・「波の上のキネマ(増山実著)」⇒ コチラから
  ・「神に守られた島(中脇初枝著)」⇒ コチラから
  ・「宝島(真藤順丈著)」⇒ コチラから
  ・「あなた(大城立裕著)」⇒ コチラから
  ・「入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)」⇒ コチラから
  ・「ジョージが殺した猪(又吉栄喜著)」⇒ コチラから
  ・「桃源(黒川博行著)」⇒ コチラから

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背景の「首里織」は、首里王府の城下町として栄えた首里において王府の貴族、士族用に作られていたもので、悠々として麗美な織物が織り継がれ、現在に至っています。この作品は、米須幸代さんの「グーシー花織」です。