神に守られた島(中脇初枝著)


神に守られた島

『神に守られた島』
1,400円+税 講談社

中脇初枝氏は、昭和49年徳島県生まれの高知県育ち。高校在学中に『魚のように』で第2回坊っちゃん文学賞を受賞し、17歳でデビュー。筑波大で民俗学を学ぶ。平成24年『きみはいい子』で第28回坪田譲治文学賞、第1回静岡書店大賞第1位、第10回本屋大賞第4位。平成26年『わたしをみつけて』で第27回山本周五郎賞候補。2016年『世界の果てのこどもたち』で第37回吉川英治文学新人賞候補、第13回本屋大賞第3位となった。

この本の舞台となった沖永良部島(おきのえらぶじま)は、現在は鹿児島県なのでこのサイトで扱っている沖縄を題材とはしていないが、 沖縄本島からはわずか60キロしか離れておらず、1609年の薩摩の琉球侵略後に薩摩の直轄地になるまでは、琉球王国の支配下にあった。だから、この著作のなかに表現されている風俗、文化、また語られている言葉は、ここは沖縄ではないかと思わせるほど酷似している。

本の帯(裏表紙)に書かれた内容紹介は、沖永良部島―沖縄のすぐそばにある小さな島は、大戦末期、米軍機による激しい攻撃を受けた。戦況が厳しくなっていくなか、島の子どもたちは戦争を肌で感じつつも、いきいきと過ごしていた。そんなある日、島に特攻機が不時着するという事件が起きる。

物語は、「マチジョー」という名の男の子の目線で語られる 。太平洋戦争末期の沖永良部島。離島ゆえに何の情報も得られず、隣島の沖縄が砲撃される音に怯え、島の人々は米軍機による空襲に逃げ惑う、そんな日常生活を送っていた。著者は戦争の悲惨さ、不条理さをこんなシーンで表している。

爆撃で洞窟に避難したら、隣りの集落から逃げ込んだおばさん達がいた。マチジョーと一緒に洞窟に入った少女の背中の赤ん坊が泣き止まない。おばさんが言った。「グラマンに泣き声が聞こえるよ」、「その子のせいで、みんなが死ぬよ」、「あんたたち、出て行ってー」。おばさんの後ろにいる人達は何も言わない。しかし、おばさんと区別がつかないほどに同じ顔をして、こちらを見ていた。「早く出て行ってよー」、おばさんは少女の背中をぐいぐい押した。マチジョーと少女は洞窟を出た。赤ん坊の泣き声が上空の戦闘機乗りに聞こえるはずがないのだが、集団心理は常軌を失わせ、弱者は いつの世にも虐げられる。この話は、沖縄戦で、ガマの中で泣き止まない赤ん坊を黙らせるために殺害した という、沖縄県平和祈念資料館の「ガマ(洞くつ)の内部展示」を思い起こさせる。

沖永良部島には、南風に乗って米軍が沖縄を攻撃する艦砲射撃の音が届く。その音がだんだん聞こえなくなる。おじいさんがつぶやく。「沖縄には、もう誰も生きていないんじゃないか」。おじいさんがうなるように言った。「あの音が止んだら、永良部の番だぞ」。その言葉は、やがて現実となった。

梅雨に入ると特攻機が一機、島に不時着した。ケガをした若い伍長はしばらく島で生活する。あるとき島のおじいさんが伍長に訊ねた。「あなたは志願して特攻隊員になったのですか。私の孫はフィリピンで特攻隊に志願して戦死したと聞かされました。家族思いのあの子が自ら志願したとは思えないのです…。あなたが言えないことは分かっていますが、本当のことを教えてください。特攻隊員は志願してなるのですか?」

伍長はためらいながら答えた「私の場合は、白い紙と封筒を渡され意思確認をされました。志望する場合は『志望』と書き、志望しないときは白紙で出せと。しかし白紙で出せば卑怯者とそしられ、家族にも迷惑がかかります。私は『命令のまま』と書いて出しましたが、白紙で出した者も何人かいました。上官は、翌朝、白紙で出したものは一人もいなかった。すべて『熱望する』と書いてあったと」。おじいさんは、膝に置かれたこぶしを震わせながら言う。「ありがとうございました。よくわかりました」。伍長は「本当は志願しました。勇んでいきましたというべきでした。そうでないと、残された者はどんなに悲しい思いをするか。本当のことを申し上げて申し訳ありません」。

最愛の家族を亡くしても、名誉の戦死だと言って涙を流すことも許されない理不尽だった時代を二度と繰り返してはいけないと、我が国は筆舌に尽くしきれない代償を支払って学習したはずなのに…。

この後のマチジョーの淡い初恋と、本土から来た男の子との友情、終戦などについては、これ以上紹介してしまうとネタばらしサイトになってしまうので触れないことにする。


◎沖縄を題材にした著作で、このサイトでご紹介しているのは、(出版順ではなく、私が読んだ順)
  ・「風景を見る犬(樋口有介著)」⇒こちらから
  ・「Juliet(ジュリエット/伊島りすと著)」⇒こちらから
  ・「水滴(目取真 俊著)」⇒こちらから
  ・「太陽の棘(原田マハ著)」⇒こちらから
  ・「スリーパー(楡周平著)」⇒こちらから
  ・「鬼忘(きぼう)島(江上 剛著)」⇒こちらから
  ・「あたしのマブイ見ませんでしたか(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「テンペスト(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「黙示録(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ほんとうの琉球の歴史(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「本屋になりたい」(宇田智子著)」⇒こちらから
  ・「ニライカナイの風」(上間司著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「豚の報い(又吉栄喜著)」⇒こちらから
  ・「祭祀のウソ・ホント(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)」⇒コチラから
  ・「辻の華(上原栄子著)」⇒こちらから
  ・「宇喜也嘉の謎(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「ヒストリア(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ウィルソン沖縄の旅 1917(古居智子著)」⇒こちらから
  ・「武士マチムラ(今野 敏著)」⇒こちらから
  ・「本日の栄町市場と、旅する小書店(宮里綾羽著)」⇒こちらから
  ・「秘祭(石原慎太郎著著)」⇒こちらから
  ・「ユタが愛した探偵(内田康夫著)」⇒こちらから
  ・「崩れる脳を抱きしめて(知念実季人著)」⇒こちらから
  ・「沖縄『骨』語り(土肥直美著)」⇒ コチラから
  ・「天地に燦たり(川越宗一著)」⇒ コチラから
  ・「波の上のキネマ(増山実著)」⇒ コチラから
  ・「宝島(真藤順丈著)」⇒ コチラから
  ・「あなた(大城立裕著)」⇒ コチラから
  ・「入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)」⇒ コチラから
  ・「ジョージが殺した猪(又吉栄喜著)」⇒ コチラから
  ・「桃源(黒川博行著)」⇒ コチラから
  ・「翡翠色の海へうたう(深沢 潮著)」⇒ コチラから


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背景の「首里織」は、首里王府の城下町として栄えた首里において王府の貴族、士族用に作られていたもので、悠々として麗美な織物が織り継がれ、現在に至っています。この作品は、米須幸代さんの「グーシー花織」です。