沖縄「骨」語り(土肥直美:どいなおみ著)


沖縄骨語り

『沖縄「骨」語り』

980円+税 琉球新報社

著者の土肥直美氏は、昭和20年生、熊本県出身。九州大学理学部生物学科卒業。専門は形質人類学で、平成4年から同22年まで琉球大学医学部解剖学第一講座准教授。平成22年から始まった沖縄県立埋蔵文化財センターによる、石垣島の白保竿根田原(しらほさおねたばる)洞穴遺跡の調査に参加し、旧石器時代人骨の発掘と分析に携わっている。共著に「沖縄人はどこから来たか」がある。

沖縄は、今、世界の人類学会から大きな注目を集めている。それは、人類史上画期的な発見が相次いでいるからである。本島の港川からは旧石器時代の約2万2千年前の完全体に近い人骨が発見された。また、石垣島の白保竿根田原(しらほさおねたばる)洞穴遺跡 からは、日本国内では最も古い約2万7千年前の人骨が発見され、平成30年4月に人骨の一体の顔の復元図が発表されるなど、マスコミからも注目されている。

平成25年12月のある日の朝刊紙面に「伊江島から腕輪を装着した人骨を発見」のニュースが第一面に大きく掲載された。このニュースを聞いて、自分が発見したわけでもないのにとても興奮した覚えがある。私は、専門は考古学ではなかったが、学生時代に歴史学科の学生ということで奈良県の遺跡の発掘に何度も立ち会ったことがあって、こういうニュースを聞くと何故か血が騒ぐのである。著者の土肥氏は、その略歴を見ると、おそらくは何度も興奮されたに違いない。遺跡の発掘をし、次々と新発見の現場に立ち会うなんてことは、そう、度々あることではない。


著者は、感動の瞬間をこのように表現している。「石垣島白保竿根田原洞穴遺跡の発掘の現場で、1.6〜1.8万年前の地層を掘っていたときのことである。ピックの先に”カツッ”という独特の感触が伝わってきた。アッツ、骨だ!ピックを止めて刷毛で土を取り除いていく。すぐに黒っぽい頭骨の一部が土の中から顔をのぞかせた。新たな更新世頭骨出土!の瞬間である。・・・心臓のドキドキが指先まで伝わってきそうだった」著者のそのときの気持ち、とてもよく分かる。こんな決定的な瞬間に何度も立ち会えるなんて、何て幸せな人だ。

これらの旧石器時代の遺骨と、その後の貝塚時代人、そして現代の沖縄人との関係は、いまだに不明である。これまで沖縄から出土する1000体を超える先人の声なき声を聞いて、骨と語り合っている土肥氏には、ぜひ その謎を解き明かしてほしいものである。



◎沖縄を題材にした著作で、このサイトでご紹介しているのは、(出版順ではなく、私が読んだ順)
  ・「風景を見る犬(樋口有介著)」⇒こちらから
  ・「Juliet(ジュリエット/伊島りすと著)」⇒こちらから
  ・「水滴(目取真 俊著)」⇒こちらから
  ・「太陽の棘(原田マハ著)」⇒こちらから
  ・「スリーパー(楡周平著)」⇒こちらから
  ・「鬼忘(きぼう)島(江上 剛著)」⇒こちらから
  ・「あたしのマブイ見ませんでしたか(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「テンペスト(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「黙示録(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ほんとうの琉球の歴史(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「本屋になりたい」(宇田智子著)」⇒こちらから
  ・「ニライカナイの風」(上間司著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「豚の報い(又吉栄喜著)」⇒こちらから
  ・「祭祀のウソ・ホント(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)」⇒コチラから
  ・「辻の華(上原栄子著)」⇒こちらから
  ・「宇喜也嘉の謎(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「ヒストリア(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ウィルソン沖縄の旅 1917(古居智子著)」⇒こちらから
  ・「武士マチムラ(今野 敏著)」⇒こちらから
  ・「本日の栄町市場と、旅する小書店(宮里綾羽著)」⇒こちらから
  ・「秘祭(石原慎太郎著著)」⇒こちらから
  ・「ユタが愛した探偵(内田康夫著)」⇒こちらから
  ・「崩れる脳を抱きしめて(知念実季人著)」⇒こちらから
  ・「沖縄『骨』語り(土肥直美著)」⇒ コチラから
  ・「天地に燦たり(川越宗一著)」⇒ コチラから
  ・「波の上のキネマ」(増山実著)」⇒ コチラから
  ・「神に守られた島(中脇初枝著)」⇒ コチラから
  ・「宝島(真藤順丈著)」⇒ コチラから
  ・「あなた(大城立裕著)」⇒ コチラから
  ・「入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)」⇒ コチラから
  ・「ジョージが殺した猪(又吉栄喜著)」⇒ コチラから
  ・「桃源(黒川博行著)」⇒ コチラから
  ・「翡翠色の海へうたう(深沢 潮著)」⇒ コチラから


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背景の「読谷山花織」は、「ゆたんざはなうぃ」または、「よみたんざんはなおり」と読みます。琉球王朝のための御用布として織られていました。絶滅寸前だったものを、昭和39年に読谷村で「幻の花織」として復活しました。