沖 縄 移 住 生 活 始 め ま し た
『武士マチムラ』 1,600円+税 集英社 |
著者の今野敏(こんの・びん)氏は、昭和30年(1955)北海道生まれ。昭和53年(1978)上智大学在学中に「怪物が街にやってくる」で第4回問題小説新人賞を受賞。レコード会社勤務を経て、執筆活動に専念。
平成18年(2006)『隠蔽捜査』で第27回吉川英治文学新人賞を受賞。その後、『果断 隠蔽捜査2』で第21回山本周五郎賞ならびに第61回日本推理作家協会賞を受賞。「隠蔽捜査」シリーズで第2回吉川英治文庫賞を受賞し、警察小説の旗手といわれている。空手の有段者で、道場「空手道 今野塾」を主宰。琉球新報に平成28年8月から同29年3月まで連載されたものを単行本化。 |
樽金には、一度見た「手」を、ほぼ記憶する特異な才能があった。父から「手」の基礎を習い、元服を迎えて興作を名乗ると、高名な伝説の武士・松村宗棍(まちむら そうこん)のもとで本格的な修行に入る。めきめきと腕を上げていった興作は、ある日、沖縄の人に狼藉をはたらく薩摩藩士と対峙し、手ぬぐい一本で剣を打ち負かしてしまう。これにより武士マチムラの名が世に広まるが、薩摩の目を逃れるために、興作は放浪の旅を余儀なくされる。やがて明治維新の荒波が沖縄を襲い、琉球王国がヤマトに消滅させられてしまう。興作は若者に「手」を教えながら、反ヤマト派の活動を始めるのだが…。空手の真髄と沖縄のあるべき姿を追い求めた男の、波瀾の生涯を描く。
松茂良興作は実在の人物で、第一尚氏の流れを汲む泊士族の雍(よう)氏・松茂良興典の長男として、泊村(現・那覇市)に生まれた。松茂良の生きた時代は、沖縄に生きる人々にとっては、苦難の動乱期だった。琉球処分と廃藩置県による琉球王国の消滅という沖縄の危機の時代に、その生涯を送った。不正を許さない義士としての性格をもつ松茂良には、乱暴をふるう薩摩の役人に立ち向かって懲らしめた話などは本当の話で、数々の武勇伝が残っている。松茂良は明治31年(1898)に没したが、松茂良の弟子には、本部朝基、喜屋武朝徳、伊波興達、山里義輝、久場興保などがいる。
現在、松茂良の空手は、本部朝基や喜屋武朝徳の系統、また伊波興達から仲宗根正侑、久場長仁に引き継がれ、それぞれ仲宗根が剛泊会の渡嘉敷唯賢氏に、久場が松茂良流興徳会の屋良朝意氏にも受け継がれている。
なお、沖縄と薩摩藩の関係をご理解いただくため、時代背景を簡単にご紹介しよう。
沖縄は琉球王国という独立国だった。しかし、1609年、それまで友好的だった薩摩は突然、琉球に襲い掛かった。
その前程には、1591年秀吉の朝鮮出兵の際、琉球にも出兵の要請がきたが、それを断るかわりの兵糧米も半分しか負担できず、あとの半分は薩摩から借り入れたのだ。それが返せない琉球は、薩摩との仲も険悪になって行った。そうこうしているうちに、ますます財政難にあえいでいた薩摩は琉球を支配して、対明貿易によって財政危機を凌ごうとし、総勢3千余、軍艦百余隻で琉球王国に侵略してきた。薩摩が銃を装備していたのに対し、琉球は弓の備えが中心で、実践豊富な薩摩に敵う筈もなく、戦利品目当ての略奪と放火に遭い、聞得大君御殿はじめ民家など首里城下は、ことごとく灰燼に帰し、あっけなく陥落し無条件降伏した。それから明治の時代まで琉球は対外的には盟主である明国の手前、独立国の体裁は保っていたものの、実質的には薩摩に隷属することになった。那覇には、薩摩から在番奉行が送り込まれ、薩摩の支配下に入った。
明治4年(1871)、明治政府は廃藩置県を実施し、大和の藩体制は崩壊したが、琉球においては明治5年(1872)、国王は藩王となり、琉球県が置かれた。しかし同12年(1879)「琉球処分」が断行され琉球藩は沖縄県となり、察度王統から500年以上続いた琉球国はここに終焉を迎えた。
以前、国際通りに「沖縄山形屋」というデパートがあった。平成11年(1999)に撤退したが、このデパートは鹿児島市に本社のある山形屋の子会社だった。業績が不振になったのは、大型店の郊外進出もあっただろうが、沖縄県人の薩摩嫌いも一因だったのではないだろうか。
◎沖縄を題材にした著作で、このサイトでご紹介しているのは、(出版順ではなく、私が読んだ順)
・「風景を見る犬(樋口有介著)」⇒こちらから
・「Juliet(ジュリエット/伊島りすと著)」⇒こちらから
・「水滴(目取真 俊著)」⇒こちらから
・「太陽の棘(原田マハ著)」⇒こちらから
・「スリーパー(楡周平著)」⇒こちらから
・「鬼忘(きぼう)島(江上 剛著)」⇒こちらから
・「あたしのマブイ見ませんでしたか(池上永一著)」⇒こちらから
・「テンペスト(池上永一著)」⇒こちらから
・「黙示録(池上永一著)」⇒こちらから
・「トロイメライ(池上永一著)」⇒こちらから
・「ほんとうの琉球の歴史(渡久地十美子著)」⇒こちらから
・「本屋になりたい」(宇田智子著)」⇒こちらから
・「ニライカナイの風」(上間司著)」⇒こちらから
・「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ(池上永一著)」⇒こちらから
・「豚の報い(又吉栄喜著)」⇒こちらから
・「祭祀のウソ。ホント(渡久地十美子著)」⇒こちらから
・「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)」⇒コチラから
・「辻の華(上原栄子著)」⇒こちらから
・「宇喜也嘉の謎(渡久地十美子著)」⇒こちらから
・「ヒストリア(池上永一著)」⇒こちらから
・「ウィルソン沖縄の旅 1917(古居智子著)」⇒こちらから
・「武士マチムラ(今野 敏著)」⇒こちらから
・「本日の栄町市場と、旅する小書店(宮里綾羽著)」⇒こちらから
・「秘祭(石原慎太郎著著)」⇒こちらから
・「ユタが愛した探偵(内田康夫著)」⇒こちらから
・「崩れる脳を抱きしめて(知念実季人著)」⇒こちらから
・「沖縄『骨』語り(土肥直美著)」⇒ コチラから
・「天地に燦たり(川越宗一著)」⇒ コチラから
・「波の上のキネマ」(増山実著)」⇒ コチラから
・「神に守られた島(中脇初枝著)」⇒ コチラから
・「宝島(真藤順丈著)」⇒ コチラから
・「あなた(大城立裕著)」⇒ コチラから
・「入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)」⇒ コチラから
・「ジョージが殺した猪(又吉栄喜著)」⇒ コチラから
・「桃源(黒川博行著)」⇒ コチラから
・「翡翠色の海へうたう(深沢 潮著)」⇒ コチラから
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背景の「読谷山花織」は、「ゆたんざはなうぃ」または、「よみたんざんはなおり」と読みます。琉球王朝のための御用布として織られていました。絶滅寸前だったものを、昭和39年に読谷村で「幻の花織」として復活しました。