沖 縄 移 住 生 活 始 め ま し た
『ユタの愛した探偵』 590円+税 徳間文庫 |
今年(平成30年)3月に亡くなった内田康夫氏の、浅見光彦シリーズの一作品である。浅見探偵が沖縄に来たのは、私の記憶では この作品だけだったと思う。平成11年の発行なので、ずいぶん前に読んだ本だが、沖縄に来るとき処分してしまったので、今回、図書館で借りて再読した。私は、内田康夫氏の作品は、「死者の木霊」の初作から二作目の「本因坊殺人事件」、そして一番新しいと思われる「狐道」まで、その大半を読むほどファンだった。今回、内田氏の訃報を聞き、沖縄を舞台にした「ユタが愛した探偵 」を、このサイトにWeb upさせていただいた。角川、徳間、光文社から文庫も出ている。 |
題名からも分かるように、沖縄が舞台となっており、式 香桜里というユタが登場する。ユタとは沖縄独特の霊能者のことをいう。沖縄では「医者半分、ユタ半分」という言葉をよく聞く。沖縄県人は、体に不調があったり、病院に行ってもよくならないときは、ユタに診てもらうのである。病気だけではない。解決できない諸問題が発生したときや物事の選択に迷いがあるときは、ユタにご宣託を仰ぐのである。これを「ユタ買い(ユタコーヤー)」という。この小説では、香桜里本人はユタと呼ばれるのを嫌っているが、幼い頃から人には見えない物が見える霊能力者という設定である。
あらすじの解説をするとネタバレになってしまうので、多くには触れないが、旅情ミステリーの名手として知られる内田氏だけあって、今回の事件と沖縄の歴史と現状、そして沖縄の旅情を巧みに融合させてストーリーを進めてゆく手法は、氏の真骨頂だろう。光彦の兄で、警察庁刑事局長の浅見陽一郎は言う「沖縄は日本であって日本ではない不思議なところだ」つまり、沖縄の持つ表の顔からは窺い知れない、もう一つの顔があるという。沖縄に移り住んで日も浅い私にも、沖縄にそういう一面があることは理解できる。
また、香桜里に「沖縄は空が大きくて、海が広くて、明るくて、陽気で…そして悲しみに満ちた国です」と表現させている。自分の島を「国」と表現しているところに、沖縄県民が思うところの本土との距離感を感じる。「悲しみに満ちた…」というが何のことなのかは、いろいろ考えられるが、基地のことも含まれているだろう。本土に復帰すれば基地はなくなるのではという期待は裏切られ、40年以上経っても(内田氏がこの作品を書いたのは復帰27年後)基地の現状は何ら変わっていない。そう表現した著者の沖縄に対する思いが伝わってくるようである。
なお、この作品は、テレビでは浅見光彦役に中村俊介さんでドラマ化されている。ヒロインの式 香桜里は、沖縄出身の知念里奈さんが演じた。光彦の兄、浅見陽一郎の役に、以前のドラマでは光彦の役をしていた榎木孝明さんが出演していたのが、何とも不自然に思えた。兄、陽一郎の役に榎木さんを推したのは、原作者の内田氏だったそうだ。
内田氏のご冥福をお祈りする。
(注1)ぶくぶく茶…泡(あわ)を飲むというか、すするというか、沖縄で飲まれるお茶。主に煎った米(玄米または白米)を煮出した米湯と、さんぴん茶と番茶を合わせた茶湯から作る。特徴的な泡が、名称の由来である。ぶくぶく茶の味にはスタンダードなお茶のほか、各種ハーブティ、薬草ブレンド茶、ウコン茶、ゴーヤ茶、コーヒーなどもある。喫茶店でメニューに置いている店もある。美味しいかどうかという味の評価は人によるだろう。首里池端町の嘉例山房(かりーさんふぁん)で、黒糖・ピーナッツを砕いた振りかけ、茶菓子、フルーツ付きで800円だった。国際通りの琉球珈琲館では、普通のコーヒーも福来福来(ぶくぶく)コーヒーも、どちらも540円だった。
両店ともに、アイスでもホットでもOK。
(注2)斎場御嶽については⇒コチラから。
◎沖縄を題材にした著作で、このサイトでご紹介しているのは、(出版順ではなく、私が読んだ順)
・「風景を見る犬(樋口有介著)」⇒こちらから
・「Juliet(ジュリエット/伊島りすと著)」⇒こちらから
・「水滴(目取真 俊著)」⇒こちらから
・「太陽の棘(原田マハ著)」⇒こちらから
・「スリーパー(楡周平著)」⇒こちらから
・「鬼忘(きぼう)島(江上 剛著)」⇒こちらから
・「あたしのマブイ見ませんでしたか(池上永一著)」⇒こちらから
・「テンペスト(池上永一著)」⇒こちらから
・「黙示録(池上永一著)」⇒こちらから
・「トロイメライ(池上永一著)」⇒こちらから
・「ほんとうの琉球の歴史(渡久地十美子著)」⇒こちらから
・「本屋になりたい」(宇田智子著)」⇒こちらから
・「ニライカナイの風」(上間司著)」⇒こちらから
・「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ(池上永一著)」⇒こちらから
・「豚の報い(又吉栄喜著)」⇒こちらから
・「祭祀のウソ・ホント(渡久地十美子著)」⇒こちらから
・「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)」⇒コチラから
・「辻の華(上原栄子著)」⇒こちらから
・「宇喜也嘉の謎(渡久地十美子著)」⇒こちらから
・「ヒストリア(池上永一著)」⇒こちらから
・「ウィルソン沖縄の旅 1917(古居智子著)」⇒こちらから
・「武士マチムラ(今野 敏著)」⇒こちらから
・「本日の栄町市場と、旅する小書店(宮里綾羽著)」⇒こちらから
・「秘祭(石原慎太郎著著)」⇒こちらから
・「ユタが愛した探偵(内田康夫著)」⇒こちらから
・「崩れる脳を抱きしめて(知念実季人著)」⇒こちらから
・「沖縄『骨』語り(土肥直美著)」⇒ コチラから
・「天地に燦たり(川越宗一著)」⇒ コチラから
・「波の上のキネマ」(増山実著)」⇒ コチラから
・「神に守られた島(中脇初枝著)」⇒ コチラから
・「宝島(真藤順丈著)」⇒ コチラから
・「あなた(大城立裕著)」⇒ コチラから
・「入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)」⇒ コチラから
・「ジョージが殺した猪(又吉栄喜著)」⇒ コチラから
・「桃源(黒川博行著)」⇒ コチラから
・「翡翠色の海へうたう(深沢 潮著)」⇒ コチラから
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背景の「読谷山花織」は、「ゆたんざはなうぃ」または、「よみたんざんはなおり」と読みます。琉球王朝のための御用布として織られていました。絶滅寸前だったものを、昭和39年に読谷村で「幻の花織」として復活しました。