沖縄移住生活始めました

翡翠色の海へうたう(深沢 潮著)



翡翠色の海へうたう(深沢 潮著)

1,760円 KADOKAWA



著者の深沢 潮(ふかざわ うしお)氏は1966年、東京都生まれ。2012年「金江のおばさん」で、第11回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。著書に受賞作を含む『ハンサラン 愛する人びと』(文庫版『縁を結うひと』)『ひとかどの父へ』『緑と赤』『伴侶の偏差値』『ランチに行きましょう』『あいまい生活』『海を抱いて月に眠る』などがある。 両親が在日韓国人であることは、本人が公表している。妊娠を機に日本国籍取得。

この作品は、出版社の書評によれば、派遣社員、彼氏なし、家族とは不仲。冴えない日々を送る葉奈は作家になる夢を叶えるべく、戦時中の沖縄を舞台に勝負作を書くことを決める。しかし取材先で問題の当事者ではない自分が書くことへの覚悟を問われ……。 国も、時代も、性別も、そのすべての境界を越えてゆけ――深沢潮、渾身作!とある。

なお、タイトルの翡翠は、沖縄の海の色とチマチョゴリ(朝鮮民族の民族衣装)の胸から垂らす飾り(ノリゲ)に使われる宝石。ともに沖縄と韓国を象徴する。

沖縄の翡翠色の海は今も変わらないが、つい7~80年前の現実に目を背けてきた我々に突き付けられた課題を提議されたかのようだ。著者本人は、「慰安婦をテーマにして描きましたが、慰安婦問題を描いたわけではないんですね。そこを一面的に捉えてほしくないと思う」と言っているが、 慰安婦という重いテーマは、目を背けたくなる描写も少なくなく、その叫びは、読み手に取って、慰安婦問題がテーマとなっていることを意識せざるを得ない。

主人公の河合葉奈(はな)は、新人賞に応募するため、インパクトのあるテーマを探していた。KーPOPアイドルのSNSがきっかけで、慰安婦を題材にした小説を書くために沖縄に飛ぶ。そんな葉奈に対し、友人は「元慰安婦の女性に心を寄せたいとは思うけれど、そんな簡単な問題じゃないよ。関わっちゃだめだ」と否定される。編集者には、「このテーマに挑むには、かなりの覚悟がいる。一文一文に高い精度が求められる。重厚な問題に挑もうとしていることを認識してほしい」と否定的である。また、取材先の女性からは「戦時中の沖縄を舞台にするというけれど、ヤマトの人が書く沖縄戦は偽物です。普通は、慰安婦のことを書くのを避けます。プロの作家になって、話題になることを狙っているのですか。気の毒という気持ちで物語を作るの傲慢です」と諫められる。

新人賞を受賞したいがため、慰安婦は被害に遭ったから気の毒だ、可哀そうという視点では物語が書けないことを悟った主人公は、いくら詳しく知っても分からないことが増えるばっかりで、完全に理解することはできない。慰安婦については、応募のために書いていいものではないと気付く。

主人公は、シェルターで暮らす二人の少女をじっと見ていたため、睨むように見返され、「哀れまれるより、何もなかったことにされる方がつらい」という言葉を聞く。人権を侵害されモノのように扱われ、尊厳を傷つけられてきた多くの慰安婦の声のようだった。

なお、ストーリーとは無関係で、物語の進行にも何の支障もないことだが、作品中に「首里城下一帯に第32軍司令部壕に、数ヵ所あった入り口はひとつを除けばすべて失われた」とあるが、6ヵ所あった入り口の内、現存しているのは1ヵ所ではなく、2ヵ所である。1ヵ所目は 園比屋武御嶽石門(そのひゃんうたきいしもん)先の左側にある階段を降りた所にあるので、首里城を訪れたときに見学できる(無料区域)。もう一ヵ所は、沖縄県立芸術大学の首里金城キャンパス の東北にあるが、私が行ったときは、腰の高さぐらいの藪で足元が見えないので、見学はおすすめできない。どちらもフェンスで施錠してあり、中に入ることはできない。現在、その歴史的事実を次世代に継承するため、壕の保存・公開に向け、検討委員会において議論が進められており、出入り口周辺の民有地を県が予算化して土地取得する動きもある。
司令壕について、詳しくお知りになりたい方は ⇒ コチラから

◎沖縄を題材にした著作で、このサイトでご紹介しているのは、(出版順ではなく、私が読んだ順)
  ・「風景を見る犬(樋口有介著)」⇒こちらから
  ・「Juliet(ジュリエット/伊島りすと著)」⇒こちらから
  ・「水滴(目取真 俊著)」⇒こちらから
  ・「太陽の棘(原田マハ著)」⇒こちらから
  ・「スリーパー(楡周平著)」⇒こちらから
  ・「鬼忘(きぼう)島(江上 剛著)」⇒こちらから
  ・「あたしのマブイ見ませんでしたか(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「テンペスト(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「黙示録(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ほんとうの琉球の歴史(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「本屋になりたい」(宇田智子著)」⇒こちらから
  ・「ニライカナイの風」(上間司著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「豚の報い(又吉栄喜著)」⇒こちらから
  ・「祭祀のウソ・ホント(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)」⇒コチラから
  ・「辻の華(上原栄子著)」⇒こちらから
  ・「宇喜也嘉の謎(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「ヒストリア(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ウィルソン沖縄の旅 1917(古居智子著)」⇒こちらから
  ・「武士マチムラ(今野 敏著)」⇒こちらから
  ・「本日の栄町市場と、旅する小書店(宮里綾羽著)」⇒こちらから
  ・「秘祭(石原慎太郎著著)」⇒こちらから
  ・「ユタが愛した探偵(内田康夫著)」⇒こちらから
  ・「崩れる脳を抱きしめて(知念実季人著)」⇒こちらから
  ・「沖縄『骨』語り(土肥直美著)」⇒ コチラから
  ・「天地に燦たり(川越宗一著)」⇒ コチラから
  ・「波の上のキネマ(増山実著)」⇒ コチラから
  ・「神に守られた島(中脇初枝著)」⇒ コチラから
  ・「宝島(真藤順丈著)」⇒ コチラから
  ・「あなた(大城立裕著)」⇒ コチラから
  ・「入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)」⇒ コチラから
  ・「ジョージが殺した猪(又吉栄喜著)」⇒ コチラから
  ・「桃源(黒川博行著)」⇒ コチラから

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