天地に燦たり(川越宗一著)


天地に燦たり

『天地に燦たり』
1,500円+税 文芸春秋社

著者の川越宗一氏は、昭和53年、大阪府生まれ。龍谷大学文学部中退。バンド活動、サラリーマン生活を経て本著で第25回松本清張賞(注1)
内容紹介には次のとおり書かれている。
「この熱量はすべての読者を圧倒する。戦を厭いながらも、戦のなかでしか生きられない島津の侍大将。被差別民でありながら、儒学を修めたいと願う朝鮮国の青年。自国を愛し「誠を尽くす」ことを信条に任務につく琉球の官人。豊臣秀吉の朝鮮出兵により侵略の風が吹き荒れる東アジアを、三つの視点から克明に続く。
なぜ人は争うことを辞められないのか。人と獣を分かつものとは、一体なんなのか---京極夏彦、三浦しをんら選考委員も絶賛した傑作歴史エンターテイメント」。

松本清張賞の選考委員の一人、東山彰良氏 は「物語は豊臣秀吉の朝鮮出兵の時代、三人の主人公がいて、この立場も利害関係も異なる三人が、戦の中で相まみえる。この三人は、立場も住む場所も文化もぜんぜん違うのだが、ある一点で共通している。それは三人ともに儒学の礼というものをとても重んじることだった。 (中略)


三人の登場人物は、礼という価値観を絶対視しつつも、お互いにせめぎあうことでだんだんに相対化している。また物語の構造上、地理的な移動を伴うことによって、それぞれが異なる文化や思想に触れて自分なりの礼を勝ち取っていく。その過程を非常にスリリングに読むことが出来た。まさに歴史時代物でありながら、移動文学の風格すら漂っていると僕には読めた。移動によって物語に葛藤が生じ、その葛藤を沈めていく過程でより高次の精神状態に到達するところが、やはりこの作品の見所なのではないか 」と述べている。

薩摩島津藩の重臣・樺山久高、朝鮮の白丁(注2)の身分にある明鐘、琉球の官人で密偵に携わる真市。彼らは一度は自分の中の生きる道を定め歩んでゆくが、時代の流れや戦に翻弄され迷い続ける。その3人が秀吉の朝鮮出兵を経て、薩摩の琉球侵略(注3)で再び出逢った。守礼門の扁額「守礼之邦」の下で自分達の生きる意義を確かめ合う。この扁額は、ずっとここにあり続ける。もし、焼けても砕かれても、また掲げられ、訪う者を出迎え、この島が「守礼之邦」だと示し続ける。登場人物は、きっとそうだと思う。そうでないなら、そうあって欲しいと心から願った。薩摩の琉球侵略から400年余が経った今、幾たびかの試練の乗り越え、守礼門は扁額を掲げ建ち続けている。

(注1)松本清張賞…清張氏の業績を記念して、各年の良質な長篇エンターテインメント小説を表彰する公募の文学賞(第5回までは短編、10回までは「広義の推理小説又は、歴史・時代小説」を対象にしていた)。過去の受賞者には、葉室麟、梶よう子、青山文平、岩井三四二、横山秀夫氏らがいる。

(注2)白丁…中国・日本の律令制や、朝鮮における身分のひとつ。朝鮮では李朝時代に被差別民を指すようになった。「白丁」の名は、無位無冠の者は色を付けた衣を身に着けずに白い衣を着けたことにちなむ(以上の注はWikipediaより)。

(注3)薩摩の琉球侵略…沖縄は琉球王国という独立国だった。しかし、1609(慶長14)年、それまで友好的だった薩摩は突然、琉球に襲い掛かった。 その前提には、1591(天正19)年、秀吉の朝鮮出兵の際、琉球にも出兵の要請がきたが、それを断るかわりの兵糧米も半分しか負担できず、あとの半分は薩摩から借り入れたのだ。それが返せない琉球は、薩摩との仲も険悪になって行った。そうこうしているうちに、ますます財政難にあえいでいた薩摩は琉球を支配して、対明貿易によって財政危機を凌ごうとし、総勢3千余、軍艦百余隻で琉球王国に侵略してきた。薩摩が銃を装備していたのに対し、琉球は弓の備えが中心で、実践豊富な薩摩に敵う筈もなく、戦利品目当ての略奪と放火に遭い、聞得大君御殿(きこえおおきみ うどぅん)はじめ民家など首里城下は、ことごとく灰燼に帰し、あっけなく陥落し無条件降伏した。それから明治の時代まで琉球は対外的には盟主である明国の手前、独立国の体裁は保っていたものの、実質的には薩摩に隷属することになった。那覇には、薩摩から在番奉行が送り込まれ、薩摩の支配下に入ったのだった(この部分は、このサイトの「武士マチムラ・今野敏著」に既出)。


◎沖縄を題材にした著作で、このサイトでご紹介しているのは、(出版順ではなく、私が読んだ順)
  ・「風景を見る犬(樋口有介著)」⇒こちらから
  ・「Juliet(ジュリエット/伊島りすと著)」⇒こちらから
  ・「水滴(目取真 俊著)」⇒こちらから
  ・「太陽の棘(原田マハ著)」⇒こちらから
  ・「スリーパー(楡周平著)」⇒こちらから
  ・「鬼忘(きぼう)島(江上 剛著)」⇒こちらから
  ・「あたしのマブイ見ませんでしたか(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「テンペスト(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「黙示録(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ほんとうの琉球の歴史(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「本屋になりたい」(宇田智子著)」⇒こちらから
  ・「ニライカナイの風」(上間司著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「豚の報い(又吉栄喜著)」⇒こちらから
  ・「祭祀のウソ・ホント(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)」⇒コチラから
  ・「辻の華(上原栄子著)」⇒こちらから
  ・「宇喜也嘉の謎(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「ヒストリア(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ウィルソン沖縄の旅 1917(古居智子著)」⇒こちらから
  ・「武士マチムラ(今野 敏著)」⇒こちらから
  ・「本日の栄町市場と、旅する小書店(宮里綾羽著)」⇒こちらから
  ・「秘祭(石原慎太郎著著)」⇒こちらから
  ・「ユタが愛した探偵(内田康夫著)」⇒こちらから
  ・「崩れる脳を抱きしめて(知念実季人著)」⇒こちらから
  ・「沖縄『骨』語り(土肥直美著)」⇒ コチラから
  ・「天地に燦たり(川越宗一著)」⇒ コチラから
  ・「波の上のキネマ」(増山実著)」⇒ コチラから
  ・「神に守られた島(中脇初枝著)」⇒ コチラから
  ・「宝島(真藤順丈著)」⇒ コチラから
  ・「あなた(大城立裕著)」⇒ コチラから
  ・「入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)」⇒ コチラから
  ・「ジョージが殺した猪(又吉栄喜著)」⇒ コチラから
  ・「桃源(黒川博行著)」⇒ コチラから
  ・「翡翠色の海へうたう(深沢 潮著)」⇒ コチラから


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背景の「読谷山花織」は、「ゆたんざはなうぃ」または、「よみたんざんはなおり」と読みます。琉球王朝のための御用布として織られていました。絶滅寸前だったものを、昭和39年に読谷村で「幻の花織」として復活しました。