沖縄移住生活始めました

渚の蛍火(けいか:坂上泉著)



渚の蛍火(坂上泉著)

1,870円 双葉社



著者の坂上泉氏は、1990年生まれ、東京大学文学部日本史学研究室で日本近現代史を専攻 。 「へぼ侍」で、第9回日本歴史時代作家協会賞の新人賞を受賞。第2作目となる 「インビジブル」で、第164回直木賞(2020年下半期)候補作となるも受賞を逃すが、第23回大藪春彦賞および第74回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞する 。この作品は、著者の第3作目となる。

「渚の蛍火」は、出版社の解説によると、 1972年春、警視庁に出向していた真栄田(まえだ)太一は本土返還が迫る琉球警察本部に着任する。その直後、沖縄内に流通するドル札を回収していた銀行の現金輸送車が襲われ、100万ドルが強奪される事件が起きる。琉球警察幹部は、真栄田を班長に秘密裏に事件解決を命じるが・・・・・・。本土返還50年を前に新鋭が描く昭和史サスペンス。 とある。

1972年の本土復帰直前、大卒が珍しかった当時の沖縄で、東京の大学を卒業し、故郷の琉球警察に奉職し、警視庁への出向から帰ってきたばかりの真栄田太一警部補は、輸送中に強奪された100万ドル(当時の為替レートでは、約3億円)の捜査を命じられる。それも、本土復帰までの2週間で秘密裏に、この金の回収を言い渡される。 これが公になると、沖縄の本土復帰に支障が出かねない不祥事になるので、少人数で捜査を行う真栄田。 日米間で複雑な立場におかれていた琉球政府は、どのように対応するのか。

読み進めていくと、50年前の沖縄の本土復帰前後の状況と、何の変わり映えしない現在がある。 復帰前は、凶悪事件を起こした米兵が、急に前線勤務や本国送還となって、罪を償うことなく琉球警察の手が届かないところへ逃げおおせることなど日常茶飯事だった。現在でも、日米地位協定のもとに、公務中の米軍関係者が刑事犯罪を起こしたとき、日本側に捜査の権限がない。このため、少女が米兵に暴行されても、大学の敷地内にヘリが墜落しても、基地に隣接する家に銃弾が撃ち込まれても、日本の警察は傍観するしかない状態が続いている。 また、米兵は出入国管理法から除外され、米軍基地経由で日本にパスポートなし・検疫不要で入国できるとしている。そのために、沖縄県では米軍関係者からコロナ感染が広まったともいわれている。2021年11月にも、成田空港で米軍関係者が新型コロナウイルスに感染したことが確認されたのに、隔離されることなく、そのまま国内線に乗り換えて沖縄に移動した。何故、隔離されなかったのか、沖縄県は厚労省と外務省に真相の究明を求めたが回答はない。この原稿を書いているとき、沖縄は、人口10万人当たりのコロナ陽性者が2223人と、本土平均の2倍という非常事態に陥っている。 「祖国復帰」は言葉だけ。復帰前と何も変わっていない沖縄の状況を見ると、復帰とは名ばかりで、欺瞞に満ち溢れている。

本書は、復帰への様々な思惑が交錯する。辿り着いた真相は、過去の辛い事件だが、前述のとおり、これは沖縄では永遠に続く問題だ。この作品は、第160回直木賞受賞の「宝島(真藤順丈著)」と同じような舞台設定で描かれているので、読み比べるのもおもしろい。 興味のある方はどうぞ。

◎沖縄を題材にした著作で、このサイトでご紹介しているのは、(出版順ではなく、私が読んだ順)
  ・「風景を見る犬(樋口有介著)」⇒こちらから
  ・「Juliet(ジュリエット/伊島りすと著)」⇒こちらから
  ・「水滴(目取真 俊著)」⇒こちらから
  ・「太陽の棘(原田マハ著)」⇒こちらから
  ・「スリーパー(楡周平著)」⇒こちらから
  ・「鬼忘(きぼう)島(江上 剛著)」⇒こちらから
  ・「あたしのマブイ見ませんでしたか(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「テンペスト(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「黙示録(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ほんとうの琉球の歴史(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「本屋になりたい」(宇田智子著)」⇒こちらから
  ・「ニライカナイの風」(上間司著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「豚の報い(又吉栄喜著)」⇒こちらから
  ・「祭祀のウソ・ホント(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)」⇒コチラから
  ・「辻の華(上原栄子著)」⇒こちらから
  ・「宇喜也嘉の謎(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「ヒストリア(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ウィルソン沖縄の旅 1917(古居智子著)」⇒こちらから
  ・「武士マチムラ(今野 敏著)」⇒こちらから
  ・「本日の栄町市場と、旅する小書店(宮里綾羽著)」⇒こちらから
  ・「秘祭(石原慎太郎著著)」⇒こちらから
  ・「ユタが愛した探偵(内田康夫著)」⇒こちらから
  ・「崩れる脳を抱きしめて(知念実季人著)」⇒こちらから
  ・「沖縄『骨』語り(土肥直美著)」⇒ コチラから
  ・「天地に燦たり(川越宗一著)」⇒ コチラから
  ・「波の上のキネマ(増山実著)」⇒ コチラから
  ・「神に守られた島(中脇初枝著)」⇒ コチラから
  ・「宝島(真藤順丈著)」⇒ コチラから
  ・「あなた(大城立裕著)」⇒ コチラから
  ・「入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)」⇒ コチラから
  ・「ジョージが殺した猪(又吉栄喜著)」⇒ コチラから
  ・「桃源(黒川博行著)」⇒ コチラから
  ・「翡翠色の海にうたう(深沢 潮著)」⇒ コチラから

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