鬼忘島(江上 剛著)


鬼忘島

『鬼忘島』

1,600円  新潮社

沖縄県の伊良部島であろう離島を主な舞台とした平成27年5月発刊の金融・旅情混合サスペンス。著者は昭和29年、兵庫県生まれ。第一勧銀(現みずほ銀)に勤める傍ら、48歳のとき「非情銀行」で作家デビュー。主な著作に「狂信者」「激情次長」などがある。

あらすじは、伝説に彩られた美しき島に「金融」という妖怪がやって来る。悪辣な銀行を裏切って、男は沖縄の離島へ逃亡した。銀行の死命を制する一本のUSBと共に。執拗にその行方を追う銀行幹部と、結託する暴力団。金融庁長官の特命を帯びた捜査官・伊地知耕介は、彼を救うことができるのか。静寂な島は、やがて修羅場と化していく…… (著者のブログより)。

伝説の島というのが、宮古島の離島という設定。島の名は鬼忘島となっているが、巻末に「伊良部村史」のみを参考文献にしていると記されているので、伊良部島を舞台としていると思われる。鬼忘(きぼう)というのは、辛さや不幸は鬼であり、それを忘れるという意味を込めて、イコール「希望」なのだ。島というと、とかく閉鎖的で、よそ者を排除するといったイメージを抱きがちだが、伊良部島ではそういうことはない。何百年も前から、中国や日本やその他の国から様々な人々が流れ着いて暮らしてきたので、そういった流れ人をみな受け入れて成り立っていると著者は言う。

この島を舞台にしつつ、中小企業を餌食にし、マネーロンダリングを続ける暴力団と新設銀行との癒着という金融の世界の問題を織り交ぜてストーリーが展開してゆく。銀行員出身の作家だけあって、金融小説としては、読者を納得させるだけの読み物としての体裁は整っているが、最終章に描かれた島を舞台にしての祭祀と島の存続をかけて島民と暴力団達が戦う攻防シーンは、ここがクライマックスなのに、徒にページを浪費しただけという感じが否めないのが、残念である。

なお、この本のサブタイトルは「金融捜査官・伊地知耕介」だが、読み終えてみると主人公は一体、誰?という思いがするのは私だけではないだろう。なお、金融捜査官という役職は日本にはない。



◎沖縄を題材にした著作で、このサイトでご紹介しているのは、(出版順ではなく、私が読んだ順)
  ・「風景を見る犬(樋口有介著)」⇒こちらから
  ・「Juliet(ジュリエット/伊島りすと著)」⇒こちらから
  ・「水滴(目取真 俊著)」⇒こちらから
  ・「太陽の棘(原田マハ著)」⇒こちらから
  ・「スリーパー(楡周平著)」⇒こちらから
  ・「鬼忘(きぼう)島(江上 剛著)」⇒こちらから
  ・「あたしのマブイ見ませんでしたか(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「テンペスト(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「黙示録(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ほんとうの琉球の歴史(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「本屋になりたい」(宇田智子著)」⇒こちらから
  ・「ニライカナイの風」(上間司著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「豚の報い(又吉栄喜著)」⇒こちらから
  ・「祭祀のウソ。ホント(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)」⇒コチラから
  ・「辻の華(上原栄子著)」⇒こちらから
  ・「宇喜也嘉の謎(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「ヒストリア」(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ウィルソン沖縄の旅 1917(古居智子著)」⇒こちらから
  ・「武士マチムラ(今野 敏著)」⇒こちらから
  ・「本日の栄町市場と、旅する小書店(宮里綾羽著)」⇒こちらから
  ・「秘祭(石原慎太郎著著)」⇒こちらから
  ・「ユタが愛した探偵(内田康夫著)」⇒こちらから
  ・「崩れる脳を抱きしめて(知念実季人著)」⇒こちらから
  ・「沖縄『骨』語り(土肥直美著)」⇒ コチラから
  ・「天地に燦たり(川越宗一著)」⇒ コチラから
  ・「波の上のキネマ」(増山実著)」⇒ コチラから
  ・「神に守られた島(中脇初枝著)」⇒ コチラから
  ・「宝島(真藤順丈著)」⇒ コチラから
  ・「あなた(大城立裕著)」⇒ コチラから
  ・「入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)」⇒ コチラから
  ・「ジョージが殺した猪(又吉栄喜著)」⇒ コチラから
  ・「桃源(黒川博行著)」⇒ コチラから
  ・「翡翠色の海へうたう(深沢 潮著)」⇒ コチラから

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