あなた(大城立裕著)


あなた

『あなた』
1,750円+税 新潮社

大城立裕(おおしろ たつひろ)氏は、大正14年9月生まれなので、今年93歳になられる(追記;2020年10月ご逝去)。沖縄県中城村(なかぐすくそん)出身。昭和18年、上海の東亜同文書院大学に入学し、同21年、敗戦により中退。高校教師を経て琉球政府、引き続き沖縄県庁の職員となり、主に経済・歴史編集畑を歩む。昭和42年、『カクテル・パーティー』で芥川賞を受賞し、沖縄初の芥川賞作家となる。「沖縄」の矛盾と苦しみと誇りをみつめた小説、戯曲やエッセーなど多くの作品を発表した。県の文化行政にも積極的に関わり、昭和58年から同61年まで沖縄県立博物館長を務めた。 平成27年、初の私小説「レールの向こう」で、川端康成文学賞を受賞(以上、Wikipediaなどより)。

本書の内容は、共に生きた六十余年、あなたは何を思っていたのだろうか……。あなたを見守り、また見送るなかで、二人ともに過ごした夫婦の時間は、行きつ戻りつしながら、記憶にさらに深く刻まれ、やがて新たに?がり始める――沖縄に暮らす日々が、静かに、豊かに、語りだされる。92歳の日常と沖縄の現状を綴り、生き抜いてきた時代を書き留める滋味あふれる私小説 と出版社の図書紹介にある。

タイトルの「あなた」とは、すでに故人となられた著者の奥さんのことである。著者の入院経験や職歴など自身の人生を振り返りながら、亡くなった奥さんと結婚してから60年余の思い出を述べてゆく。そして著者との結婚生活のなかで、あのときはどうだった、このときはどうだったと、天国の「あなた」に語りかけるスタイルをとっている。

「あとがき」では、私小説とは縁のない小説ばかりを書いてきたが、「レールの向こう」(前著表題作)から「あなた」まで、妻のことを一気に書いたという思いがあると述べておられる。作者は、分身のように寄り添ってくれた妻を「あなた」と呼び、苦しまずに終焉を迎えることができ、ラストには「あなた」と二人で生きてきたことを有難いと思うと結んでいる。「あなた」を愛しく想う気持ちが温かみをもって感じられ、愛に満ちたとても味わのある小説になっている。
 
「あなた」のほかに、防衛省の工事を受注することに葛藤する建設会社社長の「甥(おい)」の姿や辺野古移設に対する「私」の考えなどが描かれる「辺野古遠望」。小学生の「僕」の夏休みの日々を描く「御嶽の少年」をはじめ、短編5作が集録されている。


◎沖縄を題材にした著作で、このサイトでご紹介しているのは、(出版順ではなく、私が読んだ順)
  ・「風景を見る犬(樋口有介著)」⇒こちらから
  ・「Juliet(ジュリエット/伊島りすと著)」⇒こちらから
  ・「水滴(目取真 俊著)」⇒こちらから
  ・「太陽の棘(原田マハ著)」⇒こちらから
  ・「スリーパー(楡周平著)」⇒こちらから
  ・「鬼忘(きぼう)島(江上 剛著)」⇒こちらから
  ・「あたしのマブイ見ませんでしたか(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「テンペスト(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「黙示録(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ほんとうの琉球の歴史(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「本屋になりたい」(宇田智子著)」⇒こちらから
  ・「ニライカナイの風」(上間司著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「豚の報い(又吉栄喜著)」⇒こちらから
  ・「祭祀のウソ・ホント(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)」⇒コチラから
  ・「辻の華(上原栄子著)」⇒こちらから
  ・「宇喜也嘉の謎(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「ヒストリア(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ウィルソン沖縄の旅 1917(古居智子著)」⇒こちらから
  ・「武士マチムラ(今野 敏著)」⇒こちらから
  ・「本日の栄町市場と、旅する小書店(宮里綾羽著)」⇒こちらから
  ・「秘祭(石原慎太郎著著)」⇒こちらから
  ・「ユタが愛した探偵(内田康夫著)」⇒こちらから
  ・「崩れる脳を抱きしめて(知念実季人著)」⇒こちらから
  ・「沖縄『骨』語り(土肥直美著)」⇒ コチラから
  ・「天地に燦たり(川越宗一著)」⇒ コチラから
  ・「波の上のキネマ(増山実著)」⇒ コチラから
  ・「神に守られた島(中脇初枝著)」⇒ コチラから
  ・「宝島(真藤順丈著)」⇒ コチラから
  ・「あなた(大城立裕著)」⇒ コチラから
  ・「入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)」⇒ コチラから
  ・「ジョージが殺した猪(又吉栄喜著)」⇒ コチラから
  ・「桃源(黒川博行著)」⇒ コチラから
  ・「翡翠色の海へうたう(深沢 潮著)」⇒ コチラから


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背景の「首里織」は、首里王府の城下町として栄えた首里において王府の貴族、士族用に作られていたもので、悠々として麗美な織物が織り継がれ、現在に至っています。この作品は、米須幸代さんの「グーシー花織」です。