沖 縄 移 住 生 活 始 め ま し た

墜落(真山 仁著)


墜落

1,800円   文芸春秋



真山 仁(まやま じん)氏は、1962(昭和37)年生まれ、経済小説「ハゲタカ」シリーズの著者として知られる。2003(平成15)年、生命保険会社の破綻危機を描いた 『連鎖破綻 ダブルギアリング』で作家デビュー。 2012(平成24)年、『コラプティオ』で第2回山田風太郎賞候補、第146回直木賞候補 となる。

出版社の作品紹介は、次のとおり。
貧困、基地、軍用地主……「沖縄の闇」に踏み込み、知られざる本当の沖縄の姿をフィクションによって抉り出す問題作!
入念な沖縄取材で明らかになった暗部が、白日の下にさらされる。
2022年6月金城華(はな)が夫の一(はじめ)を刺殺。DVに耐えかねた妻が夫を殺した単純な事件として解決するはずだったが、担当検事となった冨永真一は不審を感じ、みずから捜査に乗り出す。
ほぼ時を同じくして、糸満市で自衛隊の戦闘機の墜落事故が発生。民間人が死亡したことで、軍事基地が集中する沖縄では、 抗議デモが巻き起こる。それに加え、航空自衛隊きってのエースパイロットによる事故は、単なる操縦ミスとは考えられない。戦闘機に何らかの不備があったのではないかと疑念が湧くが……
一見何の関係もない、二つの事件。だが、双方の担当となった冨永が捜査を進めていくと、そこには思いもかけない接点が浮かび上がる。かつてない臨場感で沖縄の闇に迫る、冨永シリーズ第三弾にして最高傑作が誕生!

以上の作品紹介だけで、あらすじを言い尽くしているので、多くは書き加えないが、 読んだ感想は、沖縄は、アメリカの植民地扱いされていると言うことを、改めて思い知らさせる小説だった。
主人公・富永検事は、上司から、「ここは沖縄だという自覚を常に持ってくれよ」と、くどいくらい繰り返して言われる。加えて「日米関係を刺激するような不穏な発言や行動は、厳に慎んでくれ」とも言われる。ここは沖縄なんだから---。沖縄は日本であって日本ではないのだ。

一見何の関係ない二つの事件という設定だった。関係のない事件で死んだ二人が、たまたま同じ模合(もあい:下記注)というのは、あまりにもご都合主義。 テーマは、沖縄の基地、政治事情、日米地位協定の壁、米軍と自衛隊、航空機のAIと人間の技術のせめぎ合いなどと豊富だが、沖縄に住んでいる者からすれば、どれも中途半端で終わっており、上辺をなぞった程度で掘り下げも浅い。

また、私のような生まれ育ちが沖縄ではない者でも、”そんなことはないですよ”と言いたいぐらいの誇張は、作品紹介には入念な取材をしたとあるが、一体、どんな取材をしたのだろうかと思わせる。それと、沖縄に対する偏見と思い込みが、極めて異常である。 「沖縄は長男第一主義だから、長男は何をやっても咎められない」とか、「12歳の少女がお酒を飲んだと言っても誰も咎めなかった。沖縄では珍しい話じゃない」なんて、いくらフィクションだからと言って、こんなデマを流さないでほしい。確かに、沖縄では長男は大切にされる。それは、本土でも同じだと思うが、何をしても許されることはない。まして、13歳の少女を妊娠させることなど、許されることではない。それは、犯罪そのものである。また、沖縄に限らず、未成年者の飲酒は少なくない。ネット検索したら、沖縄の少年少女の飲酒率が9割を超えていたという統計があったが、これは、非行があって、少年鑑別所に入所している子たちを対象に行ったアンケートだった。

なお、登場人物の一人、立会事務官(検察官の補助 )の比嘉が発する吉本〇喜劇並みのダジャレ(こりゃ、びっくり島倉千代子などが頻繁に出てくる)は、ストーリーとは何の関係もないので、TPOを弁えて使てくれないと、読んでいて煩わしい。

共鳴できたのは、「沖縄はね、県民全員が自己否定の塊なの。それで傷を舐め合って、その実、互いに潰し合ってる。何かを頑張ろうとするとダサいってバカにするし、そういう奴ははじかれちゃうんだよ」と言わせた部分くらいかなぁ。

また、飛行機が墜落してパイロットが死亡する場面で、スクランブルで嘉手納飛行場から南西に飛び立ったというくだりがある。おそらく中国機であろう未確認機を、防空識別圏の外側に追いやった数分後には、糸満市の喜屋武岬に墜落するのだが、さすがマッハ2で飛ぶジェット戦闘機は速い。変なところで感心してしまった。

(注)模合(もあいorもやい)…毎月、メンバーでお金を出し合って資金を積み立て、半年に一回、ないしは一年に一回、「親」が回ってきたら、そのお金を総取りできる。 集金するついでに「飲み会」を行うのが一般的。本土でいう頼母子講、無尽講と似ている。親族、職場、学校などで行われる友人模合、親睦模合や事業者同士の高額模合または金融模合として行われる場合もある(Wikipediaなどより)。沖縄で新型コロナの感染者が多い理由の一つが、模合で集まる飲み会だという説もある。長年の習慣なので、飲み会を規制されても、模合だけは、なかなか止められないそうだ。

◎沖縄を題材にした著作で、このサイトでご紹介しているのは、(出版順ではなく、私が読んだ順)
・「風景を見る犬(樋口有介著)」⇒こちらから
・「Juliet(ジュリエット/伊島りすと著)」⇒こちらから
・「水滴(目取真 俊著)」⇒こちらから
・「太陽の棘(原田マハ著)」⇒こちらから
・「スリーパー(楡周平著)」⇒こちらから
・「鬼忘(きぼう)島(江上 剛著)」⇒こちらから
・「あたしのマブイ見ませんでしたか(池上永一著)」⇒こちらから
・「テンペスト(池上永一著)」⇒こちらから
・「黙示録(池上永一著)」⇒こちらから
・「トロイメライ(池上永一著)」⇒こちらから
・「ほんとうの琉球の歴史(渡久地十美子著)」⇒こちらから
・「本屋になりたい」(宇田智子著)」⇒こちらから
・「ニライカナイの風」(上間司著)」⇒こちらから
・「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ(池上永一著)」⇒こちらから
・「豚の報い(又吉栄喜著)」⇒こちらから
・「祭祀のウソ・ホント(渡久地十美子著)」⇒こちらから
・「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)」⇒コチラから
・「辻の華(上原栄子著)」⇒こちらから
・「宇喜也嘉の謎(渡久地十美子著)」⇒こちらから
・「ヒストリア(池上永一著)」⇒こちらから
・「ウィルソン沖縄の旅 1917(古居智子著)」⇒こちらから
・「武士マチムラ(今野 敏著)」⇒こちらから
・「本日の栄町市場と、旅する小書店(宮里綾羽著)」⇒こちらから
・「秘祭(石原慎太郎著著)」⇒こちらから
・「ユタが愛した探偵(内田康夫著)」⇒こちらから
・「崩れる脳を抱きしめて(知念実季人著)」⇒こちらから
・「沖縄『骨』語り(土肥直美著)」⇒ コチラから
・「天地に燦たり(川越宗一著)」⇒ コチラから
・「波の上のキネマ(増山実著)」⇒ コチラから
・「神に守られた島(中脇初枝著)」⇒ コチラから
・「宝島(真藤順丈著)」⇒ コチラから
・「あなた(大城立裕著)」⇒ コチラから
・「入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)」⇒ コチラから
・「ジョージが殺した猪(又吉栄喜著)」⇒ コチラから
・「桃源(黒川博行著)」⇒ コチラから
・「翡翠色の海にうたう(深沢 潮著)」⇒ コチラから
・「渚の蛍火(坂上 泉著)」⇒ コチラから


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