太陽の棘(原田マハ著)


太陽の棘


『太陽の棘』

文芸春秋発行

1,512円

原田マハは、私の好きな作家の一人である。新刊が出ると内容も確認することなく購入する。特に2年前に出た『楽園のカンヴァス』は、作品としての完成度が高く、ストーリーの展開にスリリングな興奮を覚えた。そんな彼女の最新作が、この作品である。沖縄が舞台になっていることは、帯を見るまで気がつかなかった。

あらすじは、太平洋戦争で地上戦が行われ、荒土と化した沖縄。首里城の北に存在した「ニシムイ美術村」。そこでは、のちに沖縄画壇を代表することになる画家たちが、肖像画や風景画などを売って生計を立てながら、同時に独自の創作活動をしていた。その若手画家たちと、交流を深めていく、若き米軍軍医の目を通して描かれる、美しき芸術と友情の日々。史実をもとに描かれた沖縄とアメリカをつなぐ、海を越えた二枚の肖像画を巡る感動の物語(「文芸春秋Books」より)。

日本とアメリカの狭間で揺れる沖縄。また、困窮する生活と、創作活動の両立という困難。さまざまなモチーフが絡み合うそれらは、まさに沖縄の太陽のように身を焦がし、突き刺さる「棘」として、心を強く揺さぶる。というのは、本の話Webの書評。ニシムイ美術村のことは知っていたが、この小説のモデルが実在の人物であることは、読み終えて著者の謝辞を読んで知った。3時間足らずで、一気に読んでしまった。一見、テーマは芸術と友情のように見えるが、設定は終戦から3年後の沖縄を舞台としており、「何故、沖縄に基地があるのか、考えたことがあるか」「沖縄人は降伏よりも死を選べと日本軍に洗脳されていた」「沖縄は日本ではない」・・・などの表現が出てくる。描かれたテーマは反戦の訴えでもあるような気もした。タイトルどおり棘が引っかかるように心にとどまる作品である。

最後に著者談、「アートっていうのは。小説も本当にそれが優れたものだったら、ほぼ永遠を生きられると思うんですよ 」(原田マハ)



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《追記》 戦後、ニシムイ美術村のあったところに行ってきたので、ご紹介する。場所は末吉公園と県道82号線(那覇糸満線)の間の那覇市首里儀保町4丁目で、現在は住宅街となっている。ゆいレールの軌道とほぼ同じ高さで、由緒書きの立っている道路の南側は崖となっている。この道路の先は行き止まり。


ニシムイ美術村


HP「那覇市内史跡・旧跡詳細」によれば、
沖縄戦の後、画家達が多く居住した地区跡。首里儀保町(しゅりぎぼちょう)のニシムイに造られたため、「ニシムイ美術村」、単に「美術村」ともいう。 「ニシムイ」は、首里城の北(沖縄では「北」を「ニシ」という)に位置することから、「ニシムイ」と呼ばれ、「西森」の字が当てられた。かつては松が生い茂る景勝地で、「西森小松(にしむいしょうしょう)」と謳われた首里八景の一つであった。
昭和20年の沖縄戦で、西森の松林は、日本軍陣地壕構築のため伐り倒され、米軍の首里攻撃で焼失した。沖縄戦終結後、ウィラード・ハンナ海軍少佐等の指導の下、芸能家や画家が集められ、収容所への慰問公演や米軍人の注文で肖像画やクリスマス・カードの製作等が行われた。これらの芸術家が集められた石川市東恩納(いしかわしひがおんな)(現うるま市石川東恩納)には、沖縄陳列館や東恩納美術村が造られた。
昭和22年7月、東恩納に集められた画家達は、沖縄美術家協会を結成し、さらに、古都首里での活動を希望し、米軍の許可・援助により、西森での美術村建設が実現した。
昭和23年4月から12月にかけ、アトリエ兼住宅と研究所・陳列場を兼ねた大型コンセット3棟が完成し、名渡山愛順(などやまあいじゅん)・屋部憲(やぶけん)などの8人とその家族が移住した。その他の画家も、美術村に出入りし、美術議論を戦わせたという。美術村の画家は、米軍人の肖像画や注文に応じた絵を描き、グループ展を開催するなど創作活動も盛んで、戦後の美術活動復興の原点ともなった。
現在、西森一帯は住宅地となり、美術村という画家達の理想郷は、その面影を残していない。



◎沖縄を題材にした著作で、このサイトでご紹介しているのは、(出版順ではなく、私が読んだ順)
  ・「風景を見る犬(樋口有介著)」⇒こちらから
  ・「Juliet(ジュリエット/伊島りすと著)」⇒こちらから
  ・「水滴(目取真 俊著)」⇒こちらから
  ・「太陽の棘(原田マハ著)」⇒こちらから
  ・「スリーパー(楡周平著)」⇒こちらから
  ・「鬼忘(きぼう)島(江上 剛著)」⇒こちらから
  ・「あたしのマブイ見ませんでしたか(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「テンペスト(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「黙示録(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ほんとうの琉球の歴史(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「本屋になりたい」(宇田智子著)」⇒こちらから
  ・「ニライカナイの風」(上間司著)」⇒こちらから
  ・「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「豚の報い(又吉栄喜著)」⇒こちらから
  ・「祭祀のウソ。ホント(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「沖縄の新聞は本当に『偏向』しているのか(安田浩一著)」⇒コチラから
  ・「辻の華(上原栄子著)」⇒こちらから
  ・「宇喜也嘉の謎(渡久地十美子著)」⇒こちらから
  ・「ヒストリア」(池上永一著)」⇒こちらから
  ・「ウィルソン沖縄の旅 1917(古居智子著)」⇒こちらから
  ・「武士マチムラ(今野 敏著)」⇒こちらから
  ・「本日の栄町市場と、旅する小書店(宮里綾羽著)」⇒こちらから
  ・「秘祭(石原慎太郎著著)」⇒こちらから
  ・「ユタが愛した探偵(内田康夫著)」⇒こちらから
  ・「崩れる脳を抱きしめて(知念実季人著)」⇒こちらから
  ・「沖縄『骨』語り(土肥直美著)」⇒ コチラから
  ・「天地に燦たり(川越宗一著)」⇒ コチラから
  ・「波の上のキネマ」(増山実著)」⇒ コチラから
  ・「神に守られた島(中脇初枝著)」⇒ コチラから
  ・「宝島(真藤順丈著)」⇒ コチラから
  ・「あなた(大城立裕著)」⇒ コチラから
  ・「入れ子の水は月に轢かれ(オーガニックゆうき著)」⇒ コチラから
  ・「ジョージが殺した猪(又吉栄喜著)」⇒ コチラから
  ・「桃源(黒川博行著)」⇒ コチラから
  ・「翡翠色の海へうたう(深沢 潮著)」⇒ コチラから

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