「おばぁ」には逆らうな!


あなたが沖縄に移住し、地域社会のなかで平穏に暮らしたいのなら、身の回りにいる「老女」には、決して逆らってはいけない。沖縄は女権社会《注1》である。一家でも地域でも、真の権力者は、”おじい” でも ”おとう” でもない。誰あろう、実は ”おばぁ” なのである。

清明《注2》やお盆はじめ、毎月の火の神(ひぬかん)のウートートー《注3》など、その家の主な行事は、”あばぁ” が取り仕切る。やがては ”おばぁ” になる ”嫁” はそれを見て、その家の伝統、祭事、神事の進め方や行事の料理の作り方、出し方、並べ方を学び、代々引き継ぐのである。私は見たことがないが、テレビの「ちゅらさん」は、一面では、そういう世界を背景にしたドラマだったと聞いている。家の重要な事項の絶対的な権限と決定権を持ち、パワフルに健康で長生きしている(平成25年までは、女性のご長寿日本一)。沖縄で一番エライのは、知事でも総理大臣でもなく ”おばあ” で、家の中でも外でも、怖いもの知らずの ”おばぁ” に逆らう者は誰一人としていない。

私は、こちらに来てから二つのサークルに入れてもらった。最初のサークルは、会長は男だったが、実質的な権限を持っているのは、二人の ”おばぁ” だった。会長は名前だけで、実際は雑用係をしていた。会長は会員に諮る前に、この二人にお伺いを立てて了承されないと何も出来なかった。もし逆らうようなことをしたら追放されるかもしれない……のだとか。過去に ”おばぁ” と意見が合わず、身を引いた者も何人かいたという。これはメンバーの方々に聞いた話である。二つ目のサークルは、会長、副会長とも ”あばぁ” だが、現在のところサークル内には何の波風もなく、平穏に活動を続けている。そして、私の住んでいる町の自治会長は、私より年齢が下なので、”おばぁ” と呼んでは失礼だが、女性である。700世帯、2,000人も住んでいる町内なので、相応の裁量を持っていないと務まらないだろう(人口1,700人の国頭郡東村なら村長に相当?)。大家さんのおばあさんに聞いたら「オジイでは頼りなくて任せられないサ〜」と言われた。

ネットで読んだ笑い話がある。”おばぁ” が経営する食堂で沖縄ソバを注文した。
出来上がったソバを運んできたとき、”おばぁ” の親指がアツアツのスープの中に浸かっていた。
「あいや〜、”おばぁ〜” 指が入ってるさぁ〜」
すると ”おばぁ” は、こう言った。
「大丈夫、熱くなかったさぁ〜」

この話、作った話なのか、実際にあったかのか知らないが、沖縄の ”おばぁ” のエピソードは数限りなくある。 図々しくも元気な ”あばぁ” のエピソードは「沖縄オバァ烈伝(双葉社)」に詳しいので、そちらをご参照のほど。なお、老女に ”おばぁ” と呼べるのは、その家族、親族やお知り合いだけで、見ず知らずの他人がそう呼ぶことはタブーである。お間違いなく。

《注1》女系社会と言うのは、婚姻生活が妻方の共同体で営まれていたり、母方の血筋で血縁集団を組織している場合に言うので、私は「女系社会」ではなく、あえて「女権社会」と表現した。女性が権力を持っているという意味である。
《注2》沖縄では「シーミー」と発音し「清明祭」ともいう。中国の風習と同様にお墓の掃除をするとともに墓参を行い、餅や豚肉料理、お菓子、果物などを持ち寄ってまるで宴会のような雰囲気で親類が揃って墓前で祖先と共に会食を楽しむ風習がある(Wikipediaより)。
《注3》ウートートーは、沖縄の方言で、手を合わせて拝むことを言う。沖縄では、家や土地に神様が宿っているとされ、”ひぬかん” は、台所の竈の神様。陶製の白い香炉に線香を立て朝な夕なに拝むのを日課としている。祀り方には、細かい決まりごとがある(仲村清司「ほんとうは怖い沖縄(新潮社)」より)。

◎このサイトの ”おばぁ” 関連は
 ・おばぁ三話⇒こちらから
 ・おばぁ食堂⇒こちらから

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