「門中」でござる


平成29年7月、内容を見直し、注釈を加筆するなど、リニューアルしました。

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「門中」は「もんちゅう」と読む。沖縄言葉の「お」の段は、「う」段の発音に変化するので、「むんちゅう」ともいう。沖縄では、ごく普通に見聞きする言葉である。

「門中」とは、一族、一門のことで、共通の始祖をもつ男性(父系血縁)の集まりをいう。つまり親戚のことだが、他家から嫁いできた嫁は含まれない。あくまで、男社会の血縁集団である。本土で親戚づきあいと言うと、おじさん、おばさん、いとこ、はとこ ぐらいまでだが、沖縄では、同じ始祖なら永遠に「門中」の一員であり、始祖を敬う。同じ苗字だからと言って、必ずしも同じ「門中」とは限らない。琉球王国時代の士族は「門中」ごとに、苗字以外の共通の唐名の姓(注1)、また大和名の名乗頭(注2)を持っていた。季刊誌「おきなわいちば」によると、15世紀の琉球の中山国・按司(あじ:首長)の護佐丸を始祖とする「門中」は5〜10万人といわれているそうだ。護佐丸の唐名は毛氏(もううじ)で、本家にあたる豊見城家をはじめ上里家・富川家・座喜味家・伊野波家・勝連家・亀川家・国頭家など多くの氏からなる。

「門中」は強いつながりで結びついており、それまで 付き合いがなくとも、商談中に偶然、同じ「門中」と分かると取引がうまく行くというくらい結束が堅い。自分の祖先を強く意識しているのだ。また、「門中」は共同の墓を持つ。Wikipediaによれば、日本最大の墓といわれている「幸地腹(こうちばら)門中の墓(注3)」(糸満市)は、平成24年現在、3,436人(門中名簿登録者)を擁しており、本土の人には信じられないことだろうが、一族のほぼ全員の共同墓となっているという。墓地の面積は5,400平方メートル(1,600坪強というとテニスコート8面分くらいある。まるで、大和時代の豪族の古墳級の規模だ)あり、中央に本墓、前に四つの仮墓、東側に子供墓が配置されている〈下の写真は、幸地腹・赤比儀腹(こうちばら・あかひぎばら)両門中墓 、HP「きはらもりおのdegital dark room」より転載させていただいた)。

(注1)苗字以外の唐名の姓…沖縄の士族は全員が、日本の姓名以外に必ず中国風の姓名(唐名)を持っていた。これは、明治12年、廃藩置県で琉球王国がなくなるまで続いていた。琉球王朝の本家「尚氏」の分家は「向氏」である。たとえば、向象賢という唐名の人は、琉球王朝の分家筋だとすぐに判断がつく。沖縄では四大名門門中というのがあり、「向氏」「翁氏」「毛氏」「馬氏」の四姓で、琉球王府時代の主要ポストは、すべてこの一門で独占されていた。(HP「球陽出版」より)。

(注2)大和名の名乗頭…士族の場合、一門の名前はすべて共通の漢字が使われている。たとえば、元プロボクシング世界チャンピオン具志堅用高さんの一族は、すべて「用」の一字が使われている。お父さんが用啓、お兄さんは用詳さんである。また、具志堅用高さんのところの門中は允氏(いんうじ)で、一族の子孫の名前には「用」の字からから始まっている。だから「用」から始まる人は允氏一門であることが推測できる。このように一族ごとに名乗頭(なのりがしら)は決まっているので、名前を聞けば本家は何処で、元祖の名前が何、分家にはどこにあるのか、簡単に分かるというわけだ(HP「球陽出版」より)。(注1)の向象賢の大和名は、羽地按司朝秀で、「朝」が名乗頭である。

(注3)幸地腹門中の墓…現在でも毎年30-35体程が納骨されており、沖縄観光Webサイトによれば、現在、墓に埋葬されているのは5,500人と記されている。



幸地腹門中の墓


「門中」は、もともとは琉球王府による士族の家譜編纂を目的に作られたので、士族門中しかなかったが、時代を経ると士族以外でも裕福な家にも広がり、平民門中が出てきた。ただし、平民門中の場合は、家譜がないため唐名の姓は持たない。沖縄の「門中」は、中国の宗族の制度を真似たものだといわれている。

《ご参考》女性の門中への帰属については、地域、家により考え方が異なり、@ 嫁いでも一生、生家に属する。A 婚姻後は、生家、夫方、両方の門中に属する。B 婚姻と同時に夫方の門中に属するなど、また、離婚すると妻は生家に、子ども達は夫方に、さらに自殺や心中すると墓に入れてもらえないなど、複雑すぎてこのページには書ききれないので、詳しく知りたい方は、新垣智子著「沖縄における女性の集団帰属をめぐって」をご参考に。タイトルで検索し、JAIROのページからPDFファイルをダウンロードしてご覧を。

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